埼玉県難病相談・支援センター講演会
シェーグレン症候群について
平成27年2月8日(日) 埼玉県障害者交流センター
<本日の内容>
シェーグレン症候群はどんな病気か
シェーグレン症候群の治療
薬物治療
日常生活上の注意
新しい治療の可能性
難病指定について
どんな病気?
涙腺、唾液腺を中心に自己免疫による炎症が起こる疾患。原因は諸説あるが、確定していない。
唾液腺、涙腺以外にも消化器、肺などにも炎症が起こることがある。
日本での患者数66,300人。
約半数の患者さんは、他の自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、原発性胆汁性肝硬変など)を有する。
涙腺とは
涙を作る働きをする。
涙は目の表面を覆い、角膜に傷ができないようにしている。細菌感染の予防もしている。
唾液腺とは
唾液を作る器官。
①耳下腺、②顎下腺、③舌下腺がある。
唾液は、食べ物の消化、口の中の清浄化などの働きをする。
常に一定の量が分泌されている。
シェーグレン症候群の症状
目の乾き、チカチカする=ドライアイ
口の渇き、虫歯=ドライマウス
発汗異常
関節痛
倦怠感
まれに、皮疹、末梢神経障害(対称性のしびれ、感覚障害)、中枢神経症状、リンパ節の腫れ、慢性甲状腺炎、心膜炎、胸膜炎、間質性肺炎、肝炎、間質性腎炎など
ドライアイについて
乾性角結膜炎となる
症状:
眼の乾燥感、異物感、まぶしい
問題点:
症状がうっとうしく、日常生活の妨げとなる
進行すると角膜潰瘍を生じ、視力低下につながる
涙の通り道
涙は涙腺から分泌される
上下のまぶたの内側の小涙点から鼻へ抜ける
一日に分泌される涙の量は?
涙について
涙は、目の表面の角膜を保護している。外側から、油層、水層、ムチン(粘液)層の3層からなっている。
リゾチームや免疫グロブリンを含み、眼の表面の感染予防の働きをする
角膜の構造
角膜は透明な組織で光を通す
角膜上皮に欠損ができると、周辺の上皮細胞が移動し修復する。
シェーグレン症候群では
涙腺に慢性炎症が起こり、涙液の分泌が低下する
涙液の3層のうち、まず第2層の水層が減少、進行するとムチン層も減少する
涙液が減少すると、角膜、結膜の表面が乾燥し、傷ができやすくなる
シェーグレン症候群の目の病変の診断
涙液の分泌量を測る
シルマーテスト
角膜の傷を検出する
ローズベンガルテスト
フルオレセインテスト
涙腺生検
ドライアイの一般的治療
ドライアイの薬物治療
点眼薬:人工涙液、ヒアルロン酸
周囲の環境に応じて点眼回数を変えること
点眼によってかえってしみるような場合は防腐剤が原因の可能性も
防腐剤の入っていない、使いきりタイプの点眼薬もある
手術療法=涙点プラグ
点眼薬
ヒアレイン、ティアバランス:保水性が高い
ジクアス:結膜からの水分とムチンの分泌を促す
ムコスタ点眼:ムチンを増やす効果がある、苦い味がする
マイティア:水層の補充
一般薬の点眼薬
ソフトサンティア、ドライケア、ドライエイドなど
涙の水分の補給。
メントール入りのものはスーッとするが、かえって痛くなる場合もある
目薬について
ドライアイの予防用品
眼鏡、ゴーグルは風除けになるので目への刺激の軽減になる 。
さらに、目に湿気を与えるためのグッズも
ドライマウスについて
シェーグレン症候群の唾液腺病変の診断
唾液分泌を促す薬
エボザック サリグレン サラジェン、麦門冬湯
エボザック、サリグレン:唾液腺のムスカリン様アセチルコリン受容体に作用。消化器症状の副作用
サラジェン:唾液腺のムスカリン様アセチルコリン受容体に作用。発汗過多の副作用
麦門冬湯:痰の切れをよくする
エボザック、サリグレンの効果
サラジェンの効果
エボザック、サリグレンが飲めない場合(適用外使用)
水150mlにエボザック、サリグレン3カプセルの中味を出して溶かす。これが一日分。一日数回、ひとくち口に含んで口の中に広げ、2分間保持して吐き出す。これも唾液分泌を改善する効果があるといわれている。(中村誠司、膠原:2015年No176より)
ドライマウス対策
マスクもよい
口腔ケア は重要です
腺外症状に対して
新しい薬物治療の可能性
リツキシマブの可能性
アバタセプトの可能性
シェーグレン症候群の診断基準(厚生労働省研究班,1999年)
重症度分類 「難病情報センター」のホームページ(こちら)に詳しく書かれています 。
難病に指定されると
まとめ
Q:(74歳、女性)全身の冷えがひどく、特に手足の指は夏でもしもやけ状態です。血圧の薬以外使用しておりません。指先のレイノー状態が最近ひどくなっております。 A:シェーグレン症候群の患者さんでもレイノー現象が起こる場合があります。レイノー減少は、気温が少し下がったり、冷たい水に手をつけたり、あるいは、ちょっと緊張しただけでも指先の血管が収縮して血流が低下してしまうために指先が真っ白になって冷たくなってしまいます。中には夏でもそういうことが起こり、しもやけ状態になる人もいます。血管を広げる薬を使うことで症状は緩和されますので、相談してみてください。ただ、そのような薬は指先の血管だけを拡張するわけではないので、顔がほてってしまったりして使いにくい場合もありますが、いくつかその手の薬を試して合うものを使うのがよいでしょう。塗り薬でも、ヒルドイドなど血行をよくする成分のものもありますので、使ってみてください。後はとにかく冷やさないことと、冷えてしまったらすぐ温めることです。 Q:(34歳、男性)難病指定を受けるには「指定医」の診断が必要とのことでしたが、指定医はどのようにしたらわかりますか。病院の先生が把握しているのでしょうか。 A:埼玉県のホームページ(こちら)にも掲載されていますし、申請書をもらいに保健所に行った際にそこで聞けば教えてくれるでしょう。指定医になるための申請には、学会の専門医であることや専門の医療機関での勤務歴などが必要で、それらを記載して申請をしていますので、指定医自身は自分が指定医であることは把握しています。 Q:(49歳、女性)眼科にはどのくらいの頻度で通ったらいいのですか。以前通っていた眼科は2週間ごとに通院して毎回検査をしていました。その後大学病院に通うようになり、はじめは2か月毎でしたが、傷が減って4か月後でいいと言われました。2週間毎に通ったのは何だったのでしょう。ムコスタ点眼の一日4回は苦痛でさせません。 A:はじめの眼科に対して不信感を持たれているようですが、目の状態がそのときは悪かったから2週間毎にみる必要があったけれど、今は落ち着いてきたということかもしれませんし、大学病院ではできるだけ通院回数が少なくすむようにする傾向があるようですから、通院の頻度が少なくなったのかもしれません。ムコスタ点眼は合わない人もいるようですから、主治医の先生に正直にお話しになって他の薬に替えてもらうようにしてみてもよいでしょう。 Q:(56歳、女性)2年半前からプレドニゾロン2mgから7.5mgを服用しています。飲み始めて1年3か月後に血圧が高くなり、降圧剤を服用しています。いつも下の血圧が85~97と高い気がします。上は123~139です。大丈夫でしょうか。 昨年からたびたび両手親指の付け根が痛くなります。腱鞘炎か手根管症候群ではないかと昨年の医療相談会で説明されました。どちらも更年期の女性にも発病しやすいと聞いたことがあります。シェーグレン症候群のためなのか更年期のためなのか、いかがでしょうか。防ぐ方法はありますか。昨年11月頃から喉がイガイガしたり痰が絡んだりを繰り返しています。一度耳鼻科で喉を診てもらった方がいいのでしょうか。 A:プレドニンを飲んでいて血圧が上がることはあります。その場合は塩分の貯留が関係していることが多いですから、まずは塩分の摂取量を減らすことです。漬け物、味噌汁、醤油、塩などをとにかくできるだけ減らすことです。降圧剤も複数必要になることもあります。上の血圧はよいですが、確かに下の血圧は少し高いです。塩分制限の効果はすぐには出ませんが、根気よく治療を続けてください。病院では高くても自宅では正常ということもありますから、自宅血圧も測るようにしてください。腱鞘炎や手根管症候群はシェーグレン症候群と直接関連のあるものではありません。むしろ更年期との関連ではないかと思います。特に防ぐ方法はありませんが,すでに腱鞘炎になっているようでしたらサポーターなどで手首を保護するのがよいでしょう。喉のイガイガはシェーグレン症候群の方の場合、なかなかしつこい症状だろうと思います。耳鼻科を受診したからといって解決するものではありませんが、シェーグレン症候群の症状だと思っていたらカビの一種の感染症だったりする場合もありますから、急に症状が悪化するようでしたら耳鼻科で診てもらってください。 Q:(52歳、女性)昨年12月から38℃以上の発熱と耳下腺の腫脹を3回繰り返しています。今、腫れが2週間以上ひかなくて困っています。ドライマウスの悪化によるものでしょうか。また、更年期は関係ありますか。 A:シェーグレン症候群の患者さんで耳下腺が腫れる場合、原因は2つあります。一つは口の中から細菌が耳下腺に逆流して入っていってしまうために腫れる場合で、もう一つはシェーグレン症候群そのものによる腫れです。前者の場合は片側だけで、熱を伴います。抗生物質を飲んでよくなることが多いです。後者の場合は発熱を伴う場合もあり、両側に起こることもあります。そのようなときにはドライマウスも悪化するでしょう。更年期であることも関連はあります。 Q:(57歳、女性)人間ドックの際に鼻からの胃カメラを受けていますが、激痛があってつらいです。口からの内視鏡はもっと厳しいだろうと言われ,困っています。歯科医院はドライマウスに詳しいところがいいのでしょうか。 A:鼻からの胃カメラは、ノドに対する刺激が少なく、楽に受けられることが多いのですが、鼻自体が狭い場合はかえって苦しいかもしれません。口からの内視鏡も敏感な方は確かに厳しいのかもしれませんが、必要があれば麻酔をかけて眠っている間に受けられるようにする方法もあります。そこは検査をしてくれる先生に相談してみてください。ただ、ドックではそこまでしてもらうのは無理でしょうから、ドックではバリウム検査にして、異常があれば内視鏡をそのような方法で受ける,というのがよいかもしれませんね。 今回、ピアカウセンリングでしたので患者さんの代表の方も回答されましたがその方からの情報です:歯科の先生はドライマウスについてはたいていご存じだと思いますが、特に鶴見大学歯学部でドライマウス研修というのを行っていて,その研修を受けた歯科の先生であればさらに安心でしょう、とのことです。(http://www.drymouth-society.com/list/main5.html) Q:(64歳、女性。ご主人が出席)かかりつけの医師より「一生治りません」と言われました。そのせいか日常生活のケアへの意欲が著しく低下したように見受けられます。症状としては口が渇くことの他に、倦怠感が目立ちます。ほぼ一日ソファに横になりテレビを観て過ごしています。目薬と日常ケアでよくなるのでしょうか。 A:「一生治らない」というのは患者さんによっては、それなら何とか克服してやろうと思う人もいれば、落ち込んでしまう人もいますので、患者さんに対しての言葉は選ばないといけないと思います。確かに、インフルエンザのように一定期間の治療と安静で「治る」病気ではありません。でも、高血圧にしても「治る」訳ではなく、治療は、薬で血圧を下げて、高血圧によって起こる脳卒中などを予防することにすぎません。薬で血圧が正常になったといっても、元に戻ったわけではありません。シェーグレン症候群も、治療によって症状を和らげ、日常生活や仕事に支障がないようにする、つまり、「寛解」状態にすることが目標になります。そうやって元気に活動している人は多いですから希望は捨てないで頑張って欲しいと思います。ただ、奥様の場合はうつの傾向があるようですから、心療内科に相談してみるのも一つの方法だと思います。そして、よくなってくる場合も、少しずつ薄皮を一枚一枚はがすように時間をかけて見守っていくことが大事だと思います。 Q:72歳、女性。自己抗体検査で抗SS-A抗体、抗SS-B抗体が500といわれました。この数値はどの程度なのでしょうか。今後数値は変わっていくものなのでしょうか。治療薬としてはエポザック、サラジェンを服用しましたが、どちらも副作用がひどく、すぐに中止せざるを得ませんでした。今は漢方、メチコバール、消化剤を処方され続けています。皮膚の乾燥も気になる症状なので,皮膚が潤うような薬はありませんか。眼科にもかかっており,点眼薬を一日6回さしています。 A:抗SS-A抗体、抗SS-B抗体はシェーグレン症候群の患者さんでは陽性になる人が多いですが、その数値は病気の状態を表すものではありません。高いから悪いとか、よくなると下がってくるとかというものではありません。その人の体質を表すようなものですので、診断がついていれば再度調べることはあまり意味がありません。エボザック、サラジェンは副作用で使えないケースはよくあります。講演の中で紹介した,エボザックのリンス法もありますし、市販のドライマウス用の商品をいろいろ使ってみてください。皮膚に対しては飲み薬でよいものはありませんが、塗り薬でヒルドイドやその他の保湿剤がありますから主治医の先生に相談してみてください。点眼6回は大変かもしれませんが、続けた方がよいでしょう。
<質疑応答>