睡眠と健康

睡眠不足はからだによくないことは誰でも知っていることですし、夜更かしをして体調を崩すなどの経験も多(の方がされていることでしょう。睡眠と健康に関する研究も様々な角度からされています。

今回紹介する論文は、2つあります。ーつ目の論文は、睡眠とカゼのかかりやすさに関する研究です。Archives of Internal Medicine 2009年1月12日号(169: 62- 67)に掲載されたものです.

睡眠の時間と睡眠の質とカゼにかかりやすさを検討したものです。アメリカで行われた研究です。21〜55歳の健康な153人を対象に研究が行われました。ます、対象者には14日間の睡眠状態を記録してもらいました。睡眠時間と睡眠の質(床に入ってから実際に眠っていた時間のパーセンテージ)を報告してもらいました。そして、ライノウイルスというカゼの原因となるウイルスを含んだ液体を鼻腔内に滴下しました。ちょっと乱暴な人体実験のようですが、カゼの原因となる代表的なウイルスであり、感染実験ではよく利用される方法です。そして、ウイルスを滴下して5日間の状態を観察しました。

その結果、睡眠時間とカゼ症状の発現とにはっきりとした関連が認められました。平均睡眠時間7時間未満の人では8時間以上の人と比べ、カゼ症状の発現が2.94倍多いという結果でした。また、睡眠の質も関連があり、床に入ってからの実際の睡眠時間が92%以下の人では、98%以上の人に比べ、5.50倍カゼ症状が発現しやすかったという結果になりました。睡眠と抵抗力との関連は以前から推測されていましたが、このように実験的に証明したのはこれが初めてであって、これらの結果から、論文の著者らは睡眠時間と睡眠の質のいずれもカゼに対する抵抗力と関連が深いと結論づけています。睡眠障害により、免疫に関係するサトカインやヒスタミンという物質の分泌に異常が生じ、抵抗力の低下につながるのではないかと推測されています。

また、睡眠と動脈硬化の関連を指摘する研究もあります。Journal of American Medical Association2008年12月24日/31日合併号(300, 2859- 2866, 2008)に発表された論文です。

これは、CARDIA研究というアメリカで行われた疫学調査の一部です。この疫学調査自体は1985年から行われているもので、この調査が始まって15年目から20年目の5年間に調査を行っています。35〜47歳の男女495人を対象に行っています。動脈硬化としては、心臓の冠状動脈について検討しています。冠状動脈の動脈硬化は狭心症や心筋梗塞の原因となります。冠状動脈の動脈硬化は、CTを使って検査しています。対象となった人たちは、調査開始時点で冠状動脈の動脈硬化がないことを確認しています。睡眠については、アクチグラフィという特殊な機械で睡眠状態を測定し、さらに、日中の眠気、睡眠の質、睡眠時間の自己報告などを測定しました。5年間の観察期間で12.3%の人たちに冠状動脈の動脈硬化が現れていました。検討の結果、アクチグラフィで調べた睡眠時間が長いほど動脈硬化は少なかったという結果でした。論文の中のグラフから読み取ると、アクチグラフィで測定した睡眠時間が5時間未満となると動脈硬化が起こりやすい傾向があるようです。睡眠と動脈硬化の関連のメカ二ズムについては、睡眠と動脈硬化の間には何らかの共通因子があるのではないか、また、睡眠と炎症との関連、血圧と睡眠の関連などがあるのだろうと述べています。

 

これらの研究でも、たとえば「寝だめ」(普段は睡眠不足で休日だけたっぷり寝ること)や昼寝の効果、睡眠導入剤の使用との関連などは解明されていません。今後の研究の進歩に期待したいところです。

以上のように、睡眠はカゼのひきやすさや動脈硬化に関係します。仕事を持っているとなかなか難しいことではありますが、できるだけ睡眠はとるようにしましょう。そして、ぐっすり眠るコツとして、夜のお茶やコーヒーはひかえるというのも重要だと思います。

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