喫煙と乳がんの関係

喫煙が様々ながんの発生と関係が深いことはよく知られているところです。咽頭がん、喉頭がん、肺がんなどは発ガン物質であるタバコの煙が直接触れる臓器ですので、喫煙がそれらのがんの発生と関連があるというのは理解できます。非喫煙者に比べ、喫煙者では、喉頭がんによる死亡率は32.5倍、肺がんでは4.5倍多いといわれています。また、そのようにタバコの煙が直接触れる臓器以外でも、がんによる死亡率は喫煙者の方が高くなります。たとえば、胃がんでは1.5倍、肝臓がんでは1.5倍、膀胱がんでは1.6倍などです。今回紹介する論文は、喫煙者、受動喫煙者(本人は吸わないけど、周りに吸う人がいる場合)について、閉経後の女性にいおける乳がんの発生率を比較したものです。

British Medical Journal 2011年のオンライン速報版に掲載されたものです。

米国で行われた研究で、5079歳の79990人の女性について、平均103年間フォローしました。対象者には、喫煙、受動喫煙などの状況を詳細に報告してもらっています。経過観察期間中に3,520例の新規乳がん症例が発生しています。全く吸ったことがない人たちに比べ、過去に吸ったことがある人たち全体では乳がんのリスクは9%高く(ハザード比1.09)なり、喫煙を続けている人たちでは16%高く(ハザード比1.16)なっていました。喫煙本数、喫煙年数、吸い始めた年齢との関連が認められ、特に、50年以上吸っている人ではリスクはもっとも高くなっていました。非喫煙者と比べたときのハザード比は1.35、非喫煙者であり受動喫煙の機会もなかった人と比べるとハザード比は1.45になりました。乳がん発生リスクは、禁煙しても20年は、胃喫煙者より高いことも示唆されました。また、受動喫煙があった人(小児期に10年以上、成人になって自宅で20年以上、成人になって職場で10年以上)では、乳がんの発生リスクは、非喫煙者に比べ、32%増加(ハザード比1.32)していたそうです。この研究では、乳がんの中でも特に浸潤性乳がんについて検討していますが、喫煙者ではもちろん、非喫煙者でも、受動喫煙ではリスクが高まることが前向き研究で示されたことは大いに意味があるでしょう。

乳腺の組織が発ガン物質の影響をもっとも受けやすいのは思春期から最初の妊娠期といわれています。最初の妊娠期が終わるまでは乳腺の細胞はまだ未分化(成長しきっていない)といわれていて、発ガン物質の影響を受けやすいということになるそうです。喫煙開始年齢が若かった人で乳がんのリスクが高かったことを裏付けていると考えられます。

このようなデータも示されていますので、これが禁煙のきっかけとなっていただけたら幸いです。

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