喫煙と認知機能の低下

タバコががんや動脈硬化の危険因子となることはよく知られています。一日20本吸う人では、吸わない人に比べて肺がんの死亡率、虚血性心疾患のリスクは5倍以上になるといわれています。さらに、最近では、認知症になる率も高くなるというデータが報告されるようになりました。今回紹介する論文も、喫煙と認知機能の低下に関する研究です。Archives of General Psychiatry 201226日のオンライン版に掲載されたものです。

イギリスで行われた大規模な疫学調査を元にしています。調査は1985年から始まっていますが、1997年〜1999年の間に1回目、2002年から2004年の間に2回目、2007年から2009年の間に3回目の認知機能と健康調査を行っています。対象となったのは、平均年齢56歳(4469歳)の男性5009名と女性2137名です。第1回の認知機能検査から10年後の第3回目の認知機能検査までの間の変化と喫煙状況について検討しています。喫煙状況は、調査期間中は継続して喫煙を続けていた人、1997年〜1999年の時点で禁煙して10年未満の人、1997年〜1999年の時点で禁煙してすでに10年以上経っている人、全く喫煙したことがない人、の4グループに分けました。また、本数との関連は、調査の時点で一日に吸っている本数とそれまでに吸っていた年数をかけた指数(ブリックマンインデックス)との関連も調査しています。認知機能については、全般機能、記憶、語彙、実務能力について検討しています。

その結果、喫煙者、禁煙して10年未満の男性では、10年間の認知機能が、非喫煙者と比べて有意に低下していたのです。喫煙本数との関係でも、喫煙指数が10本・年(一日10本を1年、一日20本なら半年)増えるごとに認知機能は有意に低下が認められました。4つの認知機能検査のなかでは特に実務能力の低下が著しい傾向がみられました。女性では認知機能の低下との関係が認められなかったのは、対象者が男性より少なかったこと、喫煙本数が男性より少ないことなどが考えられます。もう少し長期間の調査をすると差が出てくるのかもしれません。

喫煙によって認知機能が低下するメカニズムにはいくつかの仮説があり、動脈硬化によって脳の血流が悪くなること、MRIによる研究などから脳の皮質下や白質という部分に喫煙者では変化が進むこと、肺機能の低下が進むことが脳にも影響を及ぼすことなどが考えられていますが、この研究だけからはどういったメカニズムによるのかはわかっていません。

認知機能は、年とともに誰でも衰えて行くものです。しかし、50代から70代の10年間で明らかに差が出てしまうのはちょっとつらいのではないでしょうか。禁煙した場合のデータについては、10年経っても影響が残ると思うとちょっとがっかりですが、10年以上禁煙が続けば非喫煙者と変わらなくなると考えることも出来ます。同様にがんのリスク、動脈硬化のリスクも10年以上禁煙が続けば非喫煙者と同程度になります。喫煙している人は、できるだけ早く禁煙して、決して再喫煙することなくすごすことによって、非喫煙者と同じ程度まで認知機能やがん、動脈硬化のリスクレベルを下げることができます。そうすることによって熟年期、初老期、老後を楽しく過ごすことが出来るでしょう。

禁煙はなかなか難しいものですが、目先のストレス解消ばかりではなく、将来の自分の生き方も考えて是非頑張って下さい。

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