喫煙とクモ膜下出血の関係

喫煙が動脈硬化の危険因子であることはよく知られていますが、実は、クモ膜下出血との関連も指摘されているのです。つまり、喫煙者の方が、クモ膜下出血になりやすい、ということが以前から指摘されています。今回発表された論文(Stroke 2004年3月1日号、2004, 35: 633 - 637)では、これまでと同様の結果に加え、タバコをやめればそのリスクは低下するという結果も示されましたので紹介します。

432例のクモ膜下出血の患者さんと、クモ膜下出血になっていない健常者473例について比較したものです。

これによると、喫煙者は、クモ膜下出血になるリスクが、非喫煙者に比べて高く、そのリスクはタバコの本数が多いほど高くなるという結果がでています。下の表に示しますように、一日1〜20本で2.8倍、20本以上で5.2倍となっています。しかし、注目すべきは、過去に吸っていたけれども禁煙した人については、やめてから1年もたてば危険性は非喫煙者と同じレベルまで下がっている、という点です。

危険率の比(オッズ比*)
非喫煙者で受動喫煙もない これを1.0とする
過去に吸っていた人
 タバコをやめてから1〜4年 1.1
 5〜15年 0.9
 15年以上 0.8
喫煙者
 一日1〜20本 2.8
 一日20本以上 5.2

(*オッズ比というのは、あることが起こる確率と、起こらない確率の比で、この場合、クモ膜下出血の起こる確率の比ということになります。禁煙した人のオッズ比0.9や0.8は誤差範囲と考えていいと思いますが、喫煙者のオッズ比が2以上というのはやはり有意で、それだけ起こりやすいということを意味します。)

この点について、論文の著者らは、クモ膜下出血へのタバコの影響は、脳の血管に長年積み重なって現れるものというよりも、喫煙による脳血管に対する短期間の影響がでるものであろうと推測しています。つまり、喫煙によって動脈硬化が進んで動脈瘤が破れやすくなって出血が起こるということよりも、喫煙によって血管が収縮したり血圧が変動したりすることが動脈瘤の破裂と関連することの方が大きいのではないか、ということのようです。

喫煙者の方の中には、禁煙したいと思っても、”今さらやめたって・・・”と考えておられる方も多いかと思いますが、禁煙によって短期間にこのような変化も得られます。とくに、クモ膜下出血は家族歴が多い病気ですので、近親者の方にクモ膜下出血になった方がおられるとか、脳ドックで動脈瘤が指摘されたというような方は、是非とも禁煙に挑戦してほしいものです。

禁煙はなかなか難しいもののようです。やはり何かきっかけがないと禁煙には踏み切れないのだと思います。このようなデータもあるということが、禁煙のきっかけとなっていただけたら幸いです。

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