メキシコ、アメリカ西部で豚インフルエンザの人から人への感染が確認される

 新型インフルエンザのパンデミック(大流行)が起こるのではないかと心配されるようになって数年が経ちます。特にトリインフルエンザH5N1がトリから人へ感染した場合、症状が重く、死亡率も高いことから、そのウイルスが人から人へ感染するタイプに変異するのではないかと懸念されています。東南アジアや最近ではエジプトでトリから人への感染と考えられる症例が多数報告されています。

しかし、今度は意外なところから新型と考えられるインフルエンザウイルスが問題となり始めました。豚に感染するインフルエンザウイルスH1N1が人から人へ感染したため一部地域で流行を起こしているのです。2009年4月23日、メキシコ政府は、メキシコシティを中心に豚インフルエンザH1N1の流行を確認し、その感染によって数週間で数百名が感染し(新聞各紙によると800名前後)、61名が死亡したと発表しました。そして、学校や博物館などの公共施設はしばらく閉鎖する事態となっています。同じウイルスによる感染者はアメリカでも発見されており、カリフォルニア州で5人、テキサス州で2人が確認されています(4月24日現在)。

このウイルスの遺伝子を解析した結果、豚の体内の細胞内に2つの異なるインフルエンザウイルスが感染し、新型インフルエンザとして出来上がったものであろうと推測されています。米国疾病予防管理センターでは過去3年間に豚インフルエンザに感染したケースを12人確認しているそうですが、そのうち11人は豚との接触があったと考えられたそうです。しかし、今回は豚との接触のない人がほとんどで、アメリカの例では親子、クラスメートの間で広がっており、人から人への感染であることが確実視されています。

もうひとつ心配なことは、通常のインフルエンザ感染で亡くなる方というのは抵抗力の弱いお年寄りや何らかの基礎疾患を抱えた方であることが多いのですが、今回のメキシコでの死亡例の多くは健康な若い人たちであったことです。このような現象は1918年のスペイン風邪や、1957年、1968年の大流行のときにもみられた現象です。世界保健機構(WHO)はこのインフルエンザがパンデミックに広がるかどうかは今のところ、明言は避けていますが、非常に警戒を強めています。メキシコシティ、アメリカ西海岸で流行が始まったとすると、今の交通網の発展から考えると、日本上陸も時間の問題かもしれません。

このウイルスは、アマンタジン、リマンタジンという、抗インフルエンザ薬(日本ではあまり使われませんが)には耐性(薬が効かない)であることが分かっています。今シーズンのインフルエンザワクチンが有効なのかどうかはまだ分かっていません。タミフル、リレンザは有効といわれていますが、H1N1インフルエンザウイルスの場合、タミフルが耐性であることが多いということもあり、タミフルが効くかどうかについては疑問視する声もあるようです。

ちょっと心配な状況になってきました。テレビや新聞の正確な情報に注目していたいものです。

(この文章は2009年4月25日の時点でわかった情報を元に書いています。今後状況は大きく変化する可能性があります。)

追記:H1N1インフルエンザはA型インフルエンザですので、外来で通常行うインフルエンザ検査ではA型インフルエンザとして判定されます。また、今冬に行った2008/2009シーズンのインフルエンザワクチンにはA(H1N1)、A(H3N2)、Bの3つの型のインフルエンザウイルスのワクチンが含まれています。ワクチンのH1N1と今回流行が始まった豚インフルエンザH1N1とは、同じH1N1でも少し型が違います。しかし、過去のウイルス変異に伴うワクチンの効果などから考えると、全く効果がないとも言えないようです。このあたりはまだ今後の検証が必要でしょう。

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