新型インフルエンザの特徴 アメリカからの報告

4月にメキシコを中心に流行が始まり、6月11日にはWHOの警戒水準が最高のフェーズ6にまで引き上げられ、世界的大流行(パンデミック)となった新型インフルエンザですが、日本国内でもまだ流行は止まってはいません。季節性インフルエンザと同程度の重症度であることや、タミフルなどが有効であることがわかり、ちょっと安心しているところがありますが、季節性インフルエンザ自体が、基礎疾患のある人や高齢者にとっては致死率の高い感染性疾患であり、決して軽く考えてよいものではありません。今秋には流行の第二波が起こることが懸念されています。

今回の新型インフルエンザの臨床像についてアメリカからまとまった報告がありましたので紹介します。New England Journal of Medicine 2009年6月18日号(2009; 360, 2606- 2615)に掲載されたものです。2009年4月5日〜5月5日に確認されたアメリカでの642例について検討したものです。4月21日までは一日10例以下の報告だったものが、4月22日には60例を超え、急速に感染が広がりました。患者さんの年齢は3歳から81歳。60%が18歳以下であり、19〜50歳の人は35%、51歳以上の人は5%と高齢者の感染は少ない傾向がありました。感染経路の可能性として、18%の人はメキシコへの渡航歴がありその際の感染が疑われ、16%は学校で感染したことが疑われる症例でした。症状は、発熱が94%、咳が92%、咽頭痛が66%、下痢が25%、嘔吐が25%でした。季節性インフルエンザに比べて下痢、嘔吐の頻度が高いようです。追跡が可能だった399例中、9%は入院が必要であり、そのうちデータが明らかな22例のうち、12例は季節性インフルエンザの重症化リスクを有していました。11例は肺炎を併発、8例は集中治療室での治療が必要となり、4例は呼吸不全になり、2例は残念ながら死亡しています。確かに、季節性インフルエンザと同様に軽症ですむ人が多いのですが、中には、特に基礎疾患のある人の中では重症化する人もいるというのが特徴です。治療薬については、現在抗インフルエンザ薬として使われているタミフルとリレンザはいずれも有効でした。

 同じ号の展望の中で、過去のパンデミックについて紹介されています。過去、1889〜1892年、1918〜1919年、1957〜1963年、1968〜1970年にパンデミックがありました。この中でも、1918〜1919年のパンデミックでは45歳以上は罹患率が低く、1968〜1970年のパンデミックでは77歳以上は罹患率が低いという現象がみられています。今回と同様、若い人ほどかかりやすいという傾向があったということです。パンデミックのウイルスに対する抗体をある年齢以上の人は有している可能性が高いと考えられるそうです。また、経時的に死亡率を見ていくと、パンデミックの期間中に死亡率が高くなる時期と低くなる時期が何度か起こっているそうです。この現象が起こる理由についてはまだ十分解明されてはいませんが、ウイルスのヒトに対する適応力が関係しているのではないかと考えられているそうです。今回の新型インフルエンザによる死亡が多く報告される時期は過ぎましたが、第二波が懸念されているのは過去のこのような現象があるという事実にも基づいています。また、季節性インフルエンザと異なり、新型インフルエンザでは免疫のある人がいないため、感染力が非常に強いのが特徴となります。1918〜1919年のパンデミックでは、1人から平均2〜5人に感染が起きていたという計算になるそうです。季節性インフルエンザでは平均1.3人だそうです。

新型インフルエンザに対する新型ワクチンの有効性の評価はまだこれからですし、タミフル耐性に変化する(タミフルが効かなくなる)のではないか、病原性が強くなるのではないかなど、さまざまな憶測があることも事実です。実際どうなるかわかりませんが、的確な情報を入手し、体調を整え、うがい、手洗いなどを忘れないようにしましょう。

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