新型インフルエンザの病原性

新型インフルエンザの流行が広まってきました。これまで、感染力は強いものの、病原性については、基礎疾患のない人にとっては季節性インフルエンザと変わらないというのが一般的に考えられてきたところですが、主にオーストラリアでの症例などから、重症化している患者さんは必ずしも基礎疾患のある人ばかりではないことがわかり、新型インフルエンザの病原性は、もしかしたら季節性インフルエンザより強いのではないか、ということもいわれ始めました。

日本の研究グループがまとめた報告がネイチャー2009年8月20日号に掲載されました(Nature 2009 Aug 20; 460: 1021)。

研究グループは、動物を使って、新型インフルエンザウイルスの感染性、病原性、薬剤の有効性を検討し、さらに、高齢者がこのウイルスに対する免疫があるかどうかも検討しています。

ウイルスは、カリフォルニアで分離された今回流行した新型インフルエンザウイルスと、2009年に日本で分離された季節性インフルエンザウイルスを用いています。

まず、感染性についてはフェレット(イタチの一種)の鼻粘膜にウイルスを塗ってを感染させ、翌日、そのフェレットと同じ飼育カゴに2-3匹の感染していないフェレットを入れて一緒に飼育し、感染するかどうかを調べました。その結果、感染力については新型インフルエンザも季節性インフルエンザもほぼ同等でした。

次に、病原性について検討しています。鼻粘膜にウイルスを塗って感染させたサルの肺を摘出し、肺の組織の破壊やウイルス粒子の広がりを調べました。その結果、季節性インフルエンザウイルスに比べて、新型インフルエンザウイルスは肺の奥深くに入り込み、肺の組織障害も強いということがわかりました。少なくともこのような実験動物においては、病原性は強いということがわかりました。

気になる治療薬の効果ですが、マウスの実験において、タミフル、リレンザ、さらに、新しい抗インフルエンザ薬として期待されているT-705について検討していますが、いずれの薬剤も季節性インフルエンザにも新型インフルエンザにも同等の効果を示しました。

また、新型インフルエンザにかかる人は若い人が多く、高齢者にはすでに免疫があるのではないかということがいわれていますが、そのことを血清を使って検討しています。その結果、1918年のパンデミックを経験した世代の人たちには免疫のある人が多く、1918年以降に生まれた人は免疫を持っていないということが示されました。

 どうやら薬は効くらしい、ということはほっとする情報ですが、あくまでも動物実験とはいえ、病原性が強いらしいということは気になる結果です。これは私の私見ですが、ウイルスが肺の奥深くに入ると重症化しやすいのかもしれないですし、一度に大量のウイルスを吸い込むとそのようなことになりやすいと考えられますから、やはり、マスクは重症化予防に効果があると期待したいと思います。そして、周囲の流行情報を知り、怪しいと思ったら、早めに受診して治療を始めることが重要でしょう。タミフル、リレンザなどの治療薬が足りなくなるようなことが起こらないよう流行が一気に広まらないでほしいと思います。

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