インフルエンザ感染予防には、サージカルマスクの効果はN95マスクに劣るものではない

 インフルエンザ感染予防には、うがい、手洗い、マスクとよく言われます。マスクは、本来は風邪をひいている人が周りにうつさないためにするもの、という考えもあるようですが、やはり、自分が感染しないためにも有効と考えられます。インフルエンザは、咳やくしゃみで飛び散ったしぶき(飛沫)の中にあるウイルスが感染源となります。この飛沫のサイズは0.1〜100μm(1μmは1mmの千分の一)といわれています。飛沫が大きければウイルスの量も多くなり、感染は起きやすく、小さい飛沫であればウイルス量は少ないため感染は起きにくくなります。動物実験などでは、10μm以下の飛沫でも感染が起こることが指摘されています。つまり、インフルエンザウイルスの感染を防ぐには、それだけ小さい飛沫を吸い込まないようなマスクをすることが必要、ということが考えられます。通常市販されているようなマスクはサージカルマスクといわれ、20μm以下の飛沫を通さない効果が2〜92%といわれています。また、病院などではさらに飛沫感染予防効果の強いN95マスクが使われており、0.3μmの飛沫を95%カットできる性能があります。従って、インフルエンザ感染の予防にはN95マスクでなければいけない、という考えが出てきます。しかし、実際には、一般の人はもちろん、医療従事者であっても常にN95マスクをするというのは現実的ではありません。そんなにたくさん生産されるものではありませんし、コストもかかります。では、普通のサージカルマスクでは効果はないのか、ということが疑問として湧いてきます。その点を研究した結果が、今回発表されました。

Journal of American Medical Associationオンライン版2009年10月1日号に掲載されました。カナダでの研究で、カナダの8か所の第三次医療機関で働く看護師を対象にした研究です。2008〜2009年のインフルエンザシーズンに行ったものです。446人を対象に、225人にはサージカルマスクを、221人にはN95マスクをして勤務してもらいました。経過中に何人がインフルエンザに感染したか、あるいは、インフルエンザ様の症状を発症したか、を比較し、サージカルマスクがN95マスクには劣るものなのかを検討しました。

その結果、サージカルマスクを使った人のうち50人(23.6%)、N95マスクを使った人のうち48人(22.9%)にそれぞれインフルエンザ感染が認められました。この差は統計学的に大きな差ではなく、サージカルマスクが劣る、というものではない、という結果でした。ここで、「感染」は抗体価が上がった場合をさしており、必ずしも発病したという意味ではありません。実際、インフルエンザ様症状を来した人は、サージカルマスクを使った人で9人(4.2%)、N95マスクを使った人で2人(1.0%)でした。これも差がありそうですが、統計学的には有意な差とはならないそうです。このように、インフルエンザ感染の予防にはN95マスクではなくても、一般的なサージカルマスクでも効果は変わらないということが示されました。

ということは、飛沫の中でもある程度大きい飛沫には感染力があるが、小さい飛沫にはあまり感染力はない、ということが言えるかもしれません。また、医療現場で20%以上の看護師がインフルエンザに「感染」したわけですが、実際に発病したのはその中でも5分の1以下の人でした。これも興味深い数字でした。つまり、ウイルスが体の中に入っても、実際に発病するのは5人に1人以下、ということになります。この研究の中では、感染しても発病しなかった人と、発病した人の間にどのような違いがあったかは明らかにされていませんが、日頃体調を整えておくということは発病予防に効果があると考えられます。

サージカルマスクでも感染予防効果が期待できますので、人混みや病院などへの外出時はマスクを忘れないようにしましょう。そして、夜更かしや、過労を避けて体調を整えましょう。

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