トリインフルエンザについての疑問
山口県の養鶏場でトリインフルエンザのため、大量のニワトリが死に、大きな問題となっています。このトリインフルエンザは私たちには影響はないのでしょうか。わかる範囲でまとめてみました。後半に続報もあります。
人がトリインフルエンザにかかることはあるのか?
基本的にはありませんが、トリインフルエンザにかかったニワトリと濃厚な接触(近距離で接触、内臓や排泄物に触れるなど)があれば、かかる可能性はあるそうです。実際、過去に香港、ベトナムなどでトリインフルエンザにかかった人が亡くなっています。しかし、人から人への感染はないのだそうです。このあたりが私にもよくわからない点です。トリインフルエンザウイルスは人の細胞内では増殖しないから人から人への感染がない、という理由なら、どうしてトリインフルエンザにかかる人がいるのか、という点がよくわかりません。
鶏肉を食べても大丈夫?
トリインフルエンザに人がかかるのは、トリインフルエンザにかかったニワトリと濃厚な接触があった場合に限られているようです。通常、日本では、生きたニワトリを買ってきて自宅で裁いて食べる、というような生活はしていませんので、濃厚な接触はなく、鶏肉や卵を食べて感染するかどうかが問題となります。しかし、今までそのようなことで感染した例はないそうです。
専門家がおそれている、インフルエンザウイルスの突然変異とは
トリインフルエンザウイルスは、鳥の細胞内に入り増殖することはできますが、人の細胞内に入って増殖することはありません。ですから、人へは感染しないのですが、そのような性質はウイルスの遺伝子によって決まっています。おそれられていることは、トリインフルエンザウイルスが豚に感染し(豚はインフルエンザにはかかりません)、同じ豚がヒトインフルエンザにも感染した場合(ヒトインフルエンザにもかかりません)、豚の体内でインフルエンザウイルスの遺伝子の交換が行われて、人にも感染する性質の遺伝子を持ったトリインフルエンザウイルスが生まれる可能性があるというのです。こうなるとヒトにとって強い病原体となってしまいます。
インフルエンザワクチンは効くのか
今回問題となったトリインフルエンザウイルスはH5N1というタイプのウイルスです。今年のインフルエンザワクチンはH1N1とH3N2のインフルエンザウイルスに対するものですので、ワクチンは効きません。また、過去にこのインフルエンザにかかった人はいませんから、みんながかかってしまう可能性があり、大流行のおそれがあるのです。インフルエンザが流行してもみんながかかるわけではないのは、すでに同じ型のインフルエンザウイルスにかかったことがあり、免疫のできている人がいるからなのです。免疫のある人が誰もいないと大流行となる危険性があります。
インフルエンザの検査で検出できるのか
近年普及してきたインフルエンザの迅速検査では、A型、B型インフルエンザが判定できます。トリインフルエンザはA型インフルエンザとして検出できるはずです。しかし、それが、トリインフルエンザなのか、従来からあるA型インフルエンザなのかは区別できません。(検出感度には問題があるかもしれません。下記の続報を参照下さい)
インフルエンザの薬は効くのか
インフルエンザ発病後48時間以内の飲めばよく効くインフルエンザの特効薬があります。トリインフルエンザもA型インフルエンザウイルスの一種ですので、この薬は効くはずです。(下記の続報に記しましたように、早く使わなければ意味はなく、今のところ早く使ったから助かった、という報告もありません)
今大切なことは、このトリインフルエンザの蔓延を食い止め、人にも感染するタイプへの変異を起こさせないことでしょう。養鶏業者の方達にとっては大変な受難だと思いますが、がんばって下さい。
もし万が一、トリインフルエンザが人にも感染するようになってしまった場合(今のところそのような事態には至っていませんが)、早めの受診と特効薬の使用によって重症化させないことが大切でしょう。ワクチンの不足に続いて、今度は特効薬の不足などという事態にならないようにして頂きたいと思います。
いずれにしても、今のところはトリインフルエンザが私たちに感染するおそれはありませんので、通常のうがい、手洗いなどを心がけておくことが大切です。(2004.1.14)
<参考となるホームページ>
・・・続報(2月28日)・・・
ベトナムでトリインフルエンザに感染した10例の患者さんについての詳しい報告がNew England Journal of Medicine 3月18日号に掲載されました。まだ発刊されていない号ですが、重要な情報ということでオンラインで速報としてアップされていました(リンクはこちら)。いくつか疑問点に答えてくれる内容でしたので、続報として紹介します。
今回、ベトナムでトリインフルエンザH5N1型に感染したと報告されたのは20人で、16人の方が亡くなっています。そのうち、この論文に報告されたのは、死亡例8例を含む10例です。年齢は8歳から24歳。情報がはっきりしない1例を除いて何らかの形で死んだトリに接触しています。トリを扱う市場などで働いている人は一人もいなかったそうです。隣の家のトリに接触したとか、家で飼っていたトリが死んで、その死骸を処理を手伝ったとか、そういう接触がほとんどです。
症状は、インフルエンザの重症型のような症状で、高熱、咳、下痢、呼吸困難などで、潜伏期間は2〜4日と考えられています。
治療薬として、オセルタミビル(日本の商品名タミフル)が使われたのは5例だけで、4例の方は亡くなっています。しかし、いずれも発症から5日以上たってから使っており、本剤の有効期間とされる”発症から48時間以内”、に比べると遅すぎた使用開始時期ということにはなります。これだけでタミフルが効かないとはいえないわけですが、早期に使えば有効という報告も今のところありません。また、もう一つの抗インフルエンザ薬である、アマンタジン(商品名シンメトレル)はウイルスとの培養の検査から耐性がある、つまり効果はないと結論づけられています。
そうなると早期診断が重要ですが、迅速検査法(現在、多くの医療機関で行われているインフルエンザの検査)の感度(診断能力)については、ちょっと期待できないという結果です。というのは検査を行った6例中、2例だけが陽性で、4例は陰性だったというのです。検査を行った時期が遅かったということもあるかもしれませんが、ちょっと心配な結果です。論文の著者らは、診断は、問診(感染したトリ類との接触などの情報)と症状から診断した方が正確だと述べています。