第6回 健康講座 からだに合った運動について

今回は、運動療法について解説します。

皆さんは運動が体によいことはすでにご存じと思いますが、今回改めて運動の効果について再確認し、また、からだに合った運動量をどうやって決めるのかを知っていただき、今後も運動を続けていくための助けになればと思います。

運動不足の影響

こんな統計があります。1940年代に10万台未満だった車の保有台数が1990年代には4000万台に増加するのですが、それと平行して糖尿病患者さんが増えているのです。文明が進んで人々が足で歩かなくてすむようになり、糖尿病患者さんも増えてきたというわけです。運動がいかに大切かを示すひとつのデータだと思います。

食事制限と運動療法

肥満解消のためには食事制限と運動が大切なわけですが、どちらがいいのでしょうか。

食事制限でも運動でも同じように体脂肪や体重が減るのですが実は少し違いがあるのです。1976年に発表された研究ですが、500カロリーの食事制限と、500カロリーの運動と、250カロリーの食事制限+250カロリーの運動を行った人たちを比較したデータがあります。これによると食事制限だけだと体重、体脂肪、筋肉すべてが減るのですが、運動を行った他の2グループの人たちは、体重、体脂肪は減り、筋肉は増えているのです(Zuti & Golding1976)。また運動を行うと内臓脂肪、皮下脂肪が減るだけでなく、食事制限だけの場合に比べ、インスリン抵抗性も改善されることがわかっています(Ross R, et al.: Arch Intern Med 2000, 133, 92-103)。これらのデータは、運動を行うことが、体重や体脂肪を減らすだけでなく、体の組成を健康的な状態に維持し、糖尿病や動脈硬化の進展に対してもよい方向に働くことを示しています。

では、運動で実際にはどのくらいのエネルギーが消費されるのでしょうか。以下の表を参考にしてください

60kgの男性の場合の運動の種類と消費エネルギー(参考文献(1)より)

運動の種類 80kcalの運動時間(分) 運動の種類 80kcalの運動時間(分)
ラジオ体操 25 日本舞踊 27
散歩(ゆっくり) 30 社交ダンス 23
歩く(ふつうに) 20 ジャズダンス 10
ウォーキング(速歩) 15 スイミング(ゆっくり) 11
ジョギング(ゆっくり) 10 スイミング(はやく) 7
ジョギング(はやめ) 8 テニス(練習) 10
サイクリング(ゆっくり 15 ゴルフ 16
サイクリング(はやめ) 10 バドミントン(練習) 9
階段昇降 15 歩くスキー 12


このようにもっとも手軽な運動としてはウォーキングとなるのではないでしょうか。

また、アメリカでは疾病リスクの減少のための運動として以下のようなものが勧められています。

◎米国疾病対策センター、米国スポーツ医学会の推奨する運動( 1995年)
・ 中等度の身体活動を一日合計30分以上(8〜10分程度の細切れでも可)、ほぼ毎日行う
・ 家事労働など日常生活でのプログラムさていないものも積極的に含めている

ここで注目すべきは30分間連続した運動ではなくてもよく、“合計”30分以上としているところです。これなら続けられそうですよね。

では、中等度の運動とはどの程度の運動でしょうか。運動量が多すぎれば心拍数は上がり、息切れがします。逆に運動量が軽すぎると心拍数は上がりません。ですから適度な運動量は心拍数の上昇を目安にします。

以下の2通りのやり方があります。

(1)心拍数が(220-年齢ー安静時心拍数)x0.5+安静時心拍数となる心拍数で運動する

(220-年齢というのは最大心拍数の予測値といわれています)

(2)心拍数が138ー(年齢/2)となる程度の運動

また、もっと簡単に、心拍数を考えない目安としては

”楽である”から”ややきつい”と感じ始める程度、とか、少し息が弾むがとなりの人と話ができる程度のいわゆる“にこにこペース”も勧められています。

では、どうして運動強度は中等度でよいのでしょうか。高血圧の場合の理由を示しましょう。

・ 運動強度が強いと運動を行っている最中の血圧が上昇する
・ 強い運動では継続が困難
・ 降圧効果は運動強度が強くても中等度でも同等とされています。

運動と高血圧

高血圧に対する運動療法の効果としてはこんなデータがあります。

10週間の運動を行った場合、患者さんの50%に降圧効果が現れ、降圧効果は平均すると、 収縮期血圧がー11mmHg、拡張期血圧が-6mmHgとなったそうです(Urata H, et al: Hypertension 1987, 9: 245-252)。

また、血圧低下は肥満度や体重減少とは無関係といわれています。つまり、運動することによって“体重が減らなくても血圧は下がる”のです。さらに、7〜10日間運動を続けると運動後1〜3日はインスリン感受性の改善が認められるといわれています。重要なのは体脂肪の減少ですから、体脂肪を測ってみるとよいでしょう。

しかし、運動を中止すると、4週間で効果は消えてしまう、といわれています。

やはり大切なのは“継続は力なり”ですね。

運動と糖尿病

運動能力と耐糖能
・ 運動をしている高齢者は、若年競技者並みに耐糖能がよい(血糖値が上がりにくい)といわれています。

糖代謝における運動の意義
・ 運動すると筋肉に糖が取り込まれる(インスリンの作用とは無関係に)
・ 運動時、運動後に活動筋でのインスリンの効き目がよくなる
・ 運動を継続して行うとインスリンに反応して筋肉が糖を取り込む機能が高まる
(樋口満ら、臨床スポーツ医学、1998より)

◎従って、糖尿病における運動療法の意義をまとめると以下のようになります。
・ インスリンの効きがよくなる
・ 食事療法とともにエネルギーの摂取、消費のバランスをよくする
・ 加齢や運動不足により体重が減少するときに起こる筋萎縮を防ぎ筋力を保つ
参考文献(1)より抜粋)

運動と高脂血症

運動療法と脂質の変化については以下のようなデータがあります。

肥満傾向のある中年男性を対象に、週3回45分間の運動を9ヶ月行い、さらに食事療法も行ったところ、中性脂肪、総コレステロールは減り、HDL(善玉)コレステロールは増えた運動と食事療法の両方を行うとより効果的だった(Katzelら、1997)というのです。

善玉コレステロールについては、最大酸素摂取量が多い(運動能力が高い)人ほど善玉コレステロールが多いということも言われています(Sasaki J et al: Atherosclerosis 70: 175-177, 1988)。

運動と骨粗鬆症

高齢化に伴い、骨粗鬆症の方も増えています。骨を強くするにはカルシウムの摂取や日光に当たることなどの他に、骨に刺激を与える意味で運動を行うことが大切です。男女を問わず、トレーニングにより骨密度が高くなることもいわれています(Kerrら、1996、Ryanら、1994)。

高齢者の運動

ところで、高齢者でも運動すれば強くなるのでしょうか?

高齢者も運動を続けることにより最大酸素摂取量(運動能力)が増すことが示されていますが、軽い体操程度では効果はなく、ウォーキングがよいようです(Warrenら、1993)。

ウォーキングの実際

◎ストレッチ
・ 運動の前に筋肉を伸ばすストレッチ体操を行いましょう

◎簡単なストレッチ
・ 思い切り背伸びをし、 肩の高さに広げた両腕をゆっくりおろす、ということをしましょう(参考文献(3)より)
・ ウォーキング程度の運動ならこれでも十分でしょう。

◎靴選びも大切です
・ 足のアーチ構造(土ふまずの盛り上がり)にあった靴を選ぶ
・ クッション性のよいものを
・ 安定性も重要

従って、ウォーキングシューズやジョギングシューズがお勧めです。

◎ウォーキングのフォーム
・ 目線は正面
・ 腕の振り下ろしは力まずに肩甲骨を引くように腕を後ろに引き、ごく自然におろす
・ つま先はしっかりとあげる
・ 着地はかかとから
・ 拇指球を押し出す
・ ひざの後ろをのばす
・ お腹を引き上げる
参考文献(3)より)

これらをすべて意識して歩くことは不可能だともいます。まずは少し歩幅を広く、腕を大きく振って歩くように心がけてみましょう。

膝や腰が痛くてウォーキングが難しいとき

膝や腰が痛くて長い距離は歩けない方もおられるかと思います。その場合はプールでの水中歩行がおすすめです。整形外科の先生にも確認していただき可能であれば水中歩行をとりいれてみてはいかがでしょう。

運動が適さない場合

心臓や肺の機能が低下していたり、関節に異常がある場合などは運動が適さない場合もあります。自己判断せず主治医によく確認するようにしましょう。

また、運動を休んだ方がよい場合として以下のようなことが言われていますので参考にしてください(参考文献(4)より)。

運動を中止すべき症状 運度を中止すべき症状(運動中)
睡眠不足
二日酔い
吐き
全身がだるい
のどが痛い、咳をする
足元がふらつく
下痢をしている
朝食をとっていない
めまい
めまい
吐き気
横腹が激しく痛む
頭痛
冷や汗
呼吸困難
いつもより強い倦怠感
胸がかき回されるように苦しい
脈拍がいつもより著しく増加
足、膝、股関節の痛みがひどい
足がもつれて運動困難
下肢筋に力が入らない

今まで運動をあまりしていなかった方も、すでにある程度の運動はされている方も、今までより少しずつ多く体を動かすように心がけてみてください。

参考文献:

(1)糖尿病治療ガイド、日本糖尿病学会編2000

(2)からだ読本シリーズ 運動とからだ、水村真由美著、山海堂

運動の効果について生理学的なことからわかりやすく解説してあります

(3)カラダ快適BOOKS3、ウォーキング&ランニング大百科、辰巳出版

ウォーキング、ランニングの実際について写真入りでわかりやすく詳しく書かれています

(4)健康スポーツ科学、黒川隆志、山崎昌廣、綱分憲明、村木里志共著、技報堂出版

運動について生理学的面から書かれています

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