サッカーワールドカップ期間中の心臓発作について

サッカーワールドカップ2010年大会に向けて、アジア3次予選が始まりました(この原稿を書いているのは2008年2月初旬)。日本代表チームは初戦の対タイ戦に快勝し、これからの活躍が期待されます。日本国民全員が熱狂し、盛り上がることはとてもよいことだと思います。しかし、スポーツの応援もほどほどにした方がよい方もいるようです。New England Journal of Medicine2008年1月31日号 (vol 385: 475- 483, 2008)に掲載された論文です。

2006年ドイツワールドカップ大会開催中の心臓発作の件数について調べた論文です。ワールドカップ大会は、ドイツで2006年6月9日から7月9日まで開かれていましたが、その間の心臓発作で救急センターを受診した4279名の患者さんは、それ以外の期間と比べてどのくらい多かったかを調べました。2006年5月1日〜6月8日、2006年7月10日〜7月31日、2003年5月1日〜7月31日を比較対象期間としています。心臓発作の内訳は、急性冠動脈症候群、有症状不整脈、心停止、埋め込み型除細動機の作動などで、ミュンヘン在住の人たちを対象としています。つまり、海外から観戦に来た人たちは除き、ドイツ人を対象としたということです。

その結果、ドイツ代表チームの試合があった日は、冠動脈疾患(狭心症発作、心筋梗塞)の発症が、対象期間と比べて2.66倍多かったことがわかりました。男性だけに限ると3.6倍、女性は1.8倍でした。すでに冠動脈疾患の既往がある人に限ると約4倍、冠動脈疾患になったことがない人でも約2倍になっていました。ドイツ代表チームの試合がない日であれば、大会期間中でも対象期間と比べて差はありませんでした。論文には、日ごとの心臓発作で搬送された症例数が折れ線グラフで示されているのですが、ドイツの試合のあった日にスパイク状に症例数が多くなっているのがよくわかります。特に、準々決勝のアルゼンチン戦、準決勝のイタリア戦で増加していました。さらに、その日の発作の起きた時刻も調べていて、試合開始から2時間以内に多かった、つまりサッカーの場合は試合中に発作が起きることが多いということも示されました。

このように、見ている方も緊張するほどのゲームとなると、冠動脈疾患のリスクは2倍以上に増えることになり、冠動脈疾患のある人たちは、そのような試合のあるときは、前もって予防的な措置を講じておくことが必要だろうと著者らは述べています。

ドイツ代表チームは、最終的には準決勝で優勝国のイタリアに敗れ、3位となりました。予選から最終日まで、緊迫したゲームの連続だったはずで、応援するドイツ国民も相当力が入っていたはずです。

具体的に予防策としては、どのようなことを気をつけたらよいでしょうか。まず、発作が起こらないような十分な薬物治療を受け、安定した状態にしておくこと、血圧をコントローしておくことなどが大切です。また、万が一の場合に備えて、ニトロの錠剤やニトロのスプレー薬などの発作止めの緊急薬を用意し、使えるようにしておくことなども必要でしょう。そして、これが一番難しいと思いますが、あまりエキサイトしないことかもしれません。

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