第9回健康講座 野菜のパワー
食品の栄養素
食品の栄養素には3大栄養素、タンパク質、脂肪、炭水化物があります。その他の栄養素として、ビタミン、ミネラル、食物繊維があげられ、さらに最近ではポリフェノール、カロチノイド、含硫化合物、テルペン、βグルカンなどの重要性も指摘されています。野菜には3大栄養素はあまり含まれていませんが、ビタミン、ミネラル、食物繊維などが多く含まれ、食品によってはポリフェノール、カロチノイドなども多く含まれています。
今回の健康講座では、ビタミン、ミネラルなどについて、野菜と疾患、特にがん、高血圧、糖尿病、高脂血症との関係について、そして、個々の野菜に含まれる栄養素について紹介したいと思います。
ビタミンについてー野菜に主に含まれるビタミンについてー
- ビタミンA
皮膚、粘膜、視紅の成分
がん予防の働き
不足すると夜盲症
植物性食品のカロチンは体内でビタミンAに変わる
- ビタミンB1
糖質をエネルギーに変える解糖系に関与
不足すると疲労がたまりやすくなり、欠乏すると脚気、ウエルニッケ脳症の原因にもなる
- ビタミンB2
発育ビタミンとして発見
生体の酸化還元系、電子伝達系の酵素
不足すると口角炎、皮膚炎、動脈硬化、白内障、老化などの原因となる
- ビタミンB6
アミノ酸の代謝に関与
皮膚、髪、歯を作るのに不可欠
不足すると口角炎、神経炎、動脈硬化、老化の原因となる
- ビタミンC
糖代謝、コラーゲン合成に関与
免疫(抗がん、抗ウイルス)にも関与
不足すると皮下出血、貧血、発育不全などの原因となる
- ビタミンK
血液凝固に関与
カルシウム沈着にも関与し骨を強くする
不足すると血液凝固障害の原因となる
- ビタミンE
抗酸化作用を有する
老化、がん、動脈硬化の原因となるフリーラジカル、過酸化脂質を抑制する
不足すると動脈硬化の原因となる
ミネラルについて
- カリウム
ナトリウムの排泄を促進=高血圧の治療によい - カルシウム
骨を形成する。血液凝固、筋肉の収縮にも関与
- マグネシウム
カルシウムと同様に骨を形成し、筋肉の収縮に関与
- リン
骨を形成する。細胞の成長、神経、筋肉の機能を保つ
- 鉄
赤血球、筋肉を形成する=貧血の予防、成長に不可欠 - 亜鉛
酵素の成分となる。不足すると味覚障害
- 銅
ヘモグロビン合成に関与。骨、血管壁の強化に関与
食物繊維
腸からは吸収されず、コレステロールや老廃物の排泄に役立つ
不足すると便秘の原因となる
大腸がん予防にも関与?
ポリフェノール
抗酸化作用があり、フリーラジカル(*)、過酸化脂質を抑制し、動脈硬化を防ぐ
細胞の老化、がん化を防ぐ
カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチンなど多種のポリフェノールがある
カロチノイド
抗酸化作用を有する
老化、発がんを抑制する
αカロチン、βカロチンは生体内でビタミンAに変わる
フリーラジカル、活性酸素とは
不飽和脂肪酸に働いて過酸化脂質を作る。過酸化脂質は動脈硬化の原因となる。
細胞のタンパク質、DNAに働いて細胞の老化、がん化を促進する
ビタミンA、C、E、ポリフェノールがフリーラジカルを抑制する
野菜と疾患について
野菜とがん予防
がん予防のために野菜の摂取が勧められています。アメリカ、日本のがん予防○ヶ条の中の野菜についても記述は以下のようになっています。
- いろいろな野菜や果物を一日に400〜800g程度摂取する(世界がん研究基金・米国がん研究協会1997提唱、がんの予防15ヶ条より)
- バランスのとれた栄養をとる。食べ物から適量のビタミンと繊維質のものを多くとる(国立がんセンター提唱がん予防の12ヶ条より)
野菜と高血圧
野菜に多く含まれるカリウムは、高血圧の原因となるナトリウムを尿中に排泄するのを助け、また、食物繊維は塩分を体外に排泄する働きがあります。さらに、野菜中心の食事により肥満解消にも役立ちます。
減塩以外の高血圧予防食としてこのような食事が推奨され、効果が確認されています(New EnglandJournal of Medicine 2001, 344:3-10):
- 普通食に比べて、飽和脂肪酸や総脂肪は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多い食事。
- カリウムは野菜、バナナ、りんごなどの果物、いもなどに多く含まれます。
- カルシウムは乳製品、小魚類、ほうれん草、小松菜などの野菜に含まれます。
- マグネシウムは大豆、アオノリ、ひじき、サンマ、アジなどに含まれます。
- 食物繊維は海草、いも、豆、椎茸、りんごなどに多く含まれます。
野菜を多くとることはこのような観点からも高血圧の治療にはよいことになります。
野菜と高脂血症
食物繊維はコレステロールを体外に排泄する働きがあります。
- 1日10.2グラムのサイリウム(可溶性食物繊維)をとることにより総コレステロールが8.9%、LDLコレステロールが13.0%低下することが報告されています(Am J Clin Nutr 1999; 69: 30-42, Am J Clin Nutr 1999; 70: 466-73)。
野菜のもつ抗酸化作用は過酸化脂質の産生を抑制し動脈硬化を抑制します。
このように野菜を多くとることは、コレステロールを下げたり、動脈硬化を予防するのに役立ちます。
野菜と糖尿病
1日10.2グラムのサイリウム(可溶性食物繊維)をとることにより一日の血糖値が11%、昼食後の血糖値が19.2%低下することが報告されています(Am J Clin Nutr 1999; 70: 466-73)。また、食物線維50グラムをとった患者さんでは、24グラムの患者さんたちに比べ、一日平均の食前血糖は13mg/dl下がり、一日尿糖は1.3グラム減り、インスリン分泌量も減ったということも報告されています(New England Journal of Medicine 2000、342、1392〜1398)。
食物繊維を多く含んだ野菜を多くとることは糖尿病の治療にも役立ちます。
個々の野菜の特徴を解説します
(レーダーチャートの数字は各成分の一日必要量に対するパーセンテージを示しています。)
トマト
- ビタミンAが豊富
赤い色はリコペンというカロチノイド:抗酸化作用を有する
抗血栓点数は100点
ビオチン、ビタミンCは美肌効果
ピーマン
- ビタミンC、βカロチンなど抗酸化作用を持つ成分が多い
食物繊維が豊富
カプサイシンが胃を整え、脂肪を燃焼させる
にんじん
- βカロチン、ビタミンAが豊富、がん予防効果が期待される
食物繊維が豊富
ブロッコリー
- ビタミンEが豊富
βカロチン、ルテイン抗がん作用
ビタミンC、ビタミンEの抗酸化作用で動脈効果を予防
食物繊維が多い
鉄が豊富
アスパラガス
- ビタミンEが豊富
ビタミンB1も豊富で疲労回復によい
先に含まれているルチンという物質は血行をよくする働きがある
しいたけ
- 食物繊維が多い
βグルカンという抗がん作用を有する物質が多い
ビタミンDが豊富でカルシウムの吸収を助ける(日光に当てるとよい)
なす
- ポリフェールが多く、動脈硬化を防ぎ、がんを予防することが期待される
カリウムが多いので高血圧によい
ほうれんそう
- ビタミンEが豊富
ビタミンC、鉄が豊富で貧血予防によい
βカロチン、ルテイン抗がん作用
抗血栓点数は100点
カルシウム、マグネシウムが多く骨を強くする
かぼちゃ
- ビタミンEが豊富
ビタミンA、カロチンが豊富
食物繊維が豊富
だいこん
- ジアスターゼが消化を助ける
ビタミンC、カルシウム、食物繊維が豊富
イソチオシアネート、ベータカロチンが豊富でがん予防効果が期待される
キャベツ
- キャベツ特有のビタミンキャベジンは胃の粘膜保護作用を有する
ビタミンCが豊富で美肌効果、抗酸化作用が期待される
ビタミンC、イソチアネート、βカロチンなど抗がん作用が期待される物質が多い
じゃがいも
- ビタミンCが豊富で美肌効果、抗酸化作用が期待される
ビタミンB1が疲労回復に役立つ
カリウムがナトリウムを排泄
食物繊維も多い
このように体にいろいろよいことのある野菜ですが、厚生労働省は一日350グラム以上の野菜をとることを推奨しています。野菜は煮たり、炒めたりするとたくさん食べられます。工夫して野菜をたくさん食べるようにしましょう。
<参考文献>
- 5訂日本食品成分表
- 内科学 朝倉書店
- 美味しく健康をつくる本 日本私立学校振興・共済事業団
- 21世紀における国民健康づくり運動<健康日本21>厚生労働省(リンクはこちら)