健診結果をふまえた生活習慣病予防教室

平成15年1月26日(日)に行われた、上福岡市保健センター主催の生活習慣病予防教室の概要です。

<本日の予定>

  1. 生活習慣病とは
  2. 生活習慣病の治療が重要なわけ
  3. 高血圧、高脂血症、糖尿病と動脈硬化
  4. それぞれの基準値とその根拠
  5. 生活習慣改善の効果
  6. 生活習慣改善のための要点
  7. 薬について
  8. 喫煙、飲酒について
  9. まとめ

1 生活習慣病とは

生活習慣病に含まれる病気

生活習慣病には以上のような病気が含まれますが、特に最初の3つ、高血圧、高脂血症、糖尿病が重要です。

2 なぜ生活習慣病が重要なのか

生活習慣病が重要な理由はいくつかあります。

動脈硬化の危険率計算の例

55歳の欧米女性の場合、血圧、コレステロールも正常、糖尿病もなく、喫煙習慣もなく、心臓肥大もないという方が、向こう10年間に心筋梗塞を起す危険率は3%とされています。

ところが、コレステロールが高いだけでその危険率は10%になり、さらに、血圧も高いと15%、糖尿病もあって、喫煙もするとなると30%になってしまうのです。つまり、喫煙、コレステロール、高血圧、糖尿病が重なると動脈硬化を起こす危険率が高まるのです

また、逆に一つでも改善することにより危険性は低くなるのです

高血圧、高脂血症、糖尿病を改善させることの重要性

3 高血圧、高脂血症、糖尿病と動脈硬化

4 それぞれの基準値とその根拠

これから具体的に、高血圧、高脂血症、糖尿病と動脈硬化の関連と、基準値の根拠について説明します。

高血圧と脳卒中

九州の久山町で行われた有名な研究です。1961年から20年間の住民の追跡調査です。これによると血圧が高いと脳梗塞、脳出血いずれも発症率が高くなることがわかります。それも、収縮期血圧140、拡張期血圧90以上の場合に、高ければ高いほど発症率は高かったのです。

高血圧と狭心症、心筋梗塞

米国の疫学調査ですが、初診時血圧と8年後の狭心症、心筋梗塞の発症率が、初回血圧140以上の人は高かったことが示されています。

他の疫学調査でも結果は大体同じです。

このようなことから血圧の基準値は以下のようになっています。

収縮期血圧140以上または拡張期血圧90以上を高血圧と定義しています。

家庭血圧の正常値:最近では自動血圧計により家庭血圧の測定が可能となりました。上記の血圧は病院での血圧を基準にしています。家庭血圧の正常値は収縮期血圧125未満かつ、拡張期血圧80未満とされています。

高脂血症と動脈硬化

多くの疫学調査のデータが出ていますが、いずれもコレステロール値が高いほど動脈硬化が起こりやすくなることが示されています。特に総コレステロール値が220を超えると、コレステロールが高いほど動脈硬化がより起こりやすくなることがわかってきました。したがって、コレステロールの基準値は以下のようになっています。

それ以外の危険因子も重要

糖尿病はなぜ問題か

脳卒中、狭心症、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の原因となります。その点は高血圧、高脂血症と同じです。しかし、糖尿病ではそれに加え、細小血管病変が起こることが特徴です。そのための合併症は以下のようなものがあります。

これらは血糖の高い状態を長く続けていると起こりやすくなります

したがって、糖尿病の診断は重要で、血糖値、HbA1cの基準値は以下のように決められています。

このように、高血圧、高脂血症、糖尿病は動脈硬化の原因となりますが、その原因は生活習慣だけなのでしょうか。決して、生活習慣だけが原因なのではありません。その点は誤解のないようにしていただきたいと思います。つまり、生活習慣病は

遺伝的に規定された体質+生活習慣

によって発病するのです。生活習慣を改善することにより、体質を持っていても発病を防いだり、改善したりすることができるのです。

ではどんな生活習慣がよいのでしょう?ブレスローというアメリカの科学者が提唱したの7つの健康習慣は以下のようなものです。

  1. 適正な睡眠時間
  2. 喫煙をしない
  3. 適正体重を維持する
  4. 過度の飲酒をしない
  5. 定期的に運動する
  6. 朝食を毎日食べる
  7. 間食をしない

どうでしょう。すべてを満たすことは難しいと思います。できるだけそれに近づくよう、生活習慣を見直しましょう。
ところで、生活習慣を変えるというのは大変難しいことです。日野原重明先生は著書の“人生改造 生活習慣病を防ぐ本”の中で、生活習慣を変える三段階を紹介しています。

生活習慣変容の三段階

  1. 正しい健康情報を学ぶこと
  2. その知識、情報を自分の問題として受け止め、考えること
  3. 実行

今回のセミナーでは皆さんにできるだけ正しい情報を学んでいただきたいと思っています。

さて、今日の重要なテーマに移ります。

5 生活習慣改善の効果

生活習慣の改善は本当に効果があるのでしょうか。生活習慣に問題があると生活習慣病を発病し、動脈硬化が進んでしまうことを説明しました。では、生活習慣を改善したら、生活習慣病は良くなり、そして、動脈硬化も予防できるのでしょうか。そして、生活習慣改善の要点について、以下に解説します。

高血圧と生活習慣

無塩食の効果

無塩食にすると3週間目頃から血圧は劇的に下がってくることがわかっています。200/130くらいの高血圧の人も、無塩食によって3週目から血圧が下がり始め、数ヵ月後には120/90くらいまで下がったことが報告されています。実際に無塩にすることは無理ですが、塩分一日6グラムまでは降圧効果が見られます。

高血圧の方は塩分を一日6グラムになるよう減塩にしましょう、というのはそういうわけなのです。

減塩+αの効果

軽症高血圧の412人を対象にした検討結果から、減塩に加え、飽和脂肪酸や総脂肪は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多くとるようにし、さらなる降圧を認めたことが報告されています。つまり、減塩だけでなく、動物性脂肪を減らし、緑黄色野菜やきのこ、海草、豆類などを多くとるとさらによいということになります。

日本人にとっては難しい減塩ですが、そのコツを紹介しましょう

以上の点に注意して減塩に挑戦してみてください。

運動による降圧効果

運動により血圧は収縮期血圧が11mmHg程度、拡張期血圧が6mmHg 程度下がるといわれています。老人でも(平均75.5歳)同様の結果が認められています。

そのための運動強度は心拍数では、138ー(年齢/2)となる程度の運動がよく、“楽である”から“ややきつい”と感じ始める程度の運動がよいのです。少し早足のウォーキングがよいとされるのはそのためです。

運動が好ましくない状態:以下の場合などでは医師の診察を受け、治療により運動可能となってから運動を開始することが望ましいでしょう。

高脂血症と生活習慣

高脂血症の生活習慣改善の効果

オスロ研究という研究があります:コレステロール260〜360の高コレステロールの男性に食事療法と禁煙を指導した場合の狭心症、心筋梗塞の発症頻度を調査。指導しなかった人たちと比べ、指導された人たちでは、5年後の狭心症、心筋梗塞は47%、8年後は44%と明らかな減少を認めたというものです。この研究では禁煙も行っている点が重要です。

食事療法だけの効果を調べたものもあります。

ロサンゼルス退役軍人研究という研究では、高脂血症の外来患者さんに食事療法を行いました。食事療法を行わなかった人たちに比べ、食事療法を行った人たちでは、コレステロールが13%低下し、狭心症、心筋梗塞の頻度は35%減りました。

運動と善玉コレステロール

一日の歩行数が多いほど、つまり運動週間のある人ほど善玉(HDL)コレステロールが高いことがわかっています。善玉コレステロールは動脈硬化を防いでくれます。

高脂血症の食事療法の要点

食物繊維を多くとるには

脂肪をひかえる方法

糖尿病と生活習慣

なぜ糖尿病は増えているのか

日本人の糖尿病患者さんが近年大変増加していることが指摘されています。??歳以上の男性で、糖尿病の方は??人に一人、予備軍の方も含めると??人に一人、といわれています。その理由はいろいろ考えられていますが、最近わかってきたことは、日本人はもともと少食でよいような体質にできているということです。それは遺伝子で決められていて、それは“倹約遺伝子”とよばれています。この遺伝子は日本人だけでなく、アメリカインディアンにも認められています。そのような体質を持っているにもかかわらず、近年、高カロリー、高脂肪の欧米型の食事を摂るようになり、また、自動車の普及などに伴い運動不足になったために糖尿病になる人が増えたと考えられています。

糖尿病と生活習慣改善の効果

糖尿病の生活習慣改善の効果については多くの報告がありますが、一例を示します。境界型糖尿病(予備軍)の肥満患者さん522名について検討したものです。境界型糖尿病の方は数年後に糖尿病を発病する率が高いことがわかっています。そのような患者さんについて、3.2年間追跡調査を行いました。その結果、食事指導と運動指導を行うことにより糖尿病に移行した人は58%減少したとされています。

その指導内容は以下のようなものでした。

このような徹底した指導のもと生活習慣を改善すれば、糖尿病の発病を押さえることができることが実証されたのです。また、同様の生活習慣改善はすでに糖尿病を発病している人にとっても良い効果があります。食事療法と運動療法の要点は以下のようになります。

糖尿病における食事療法

糖尿病における運動療法

6 生活習慣改善のための要点

7 薬について

薬はどんな場合に必要なのでしょうか

薬は飲み続けないといけないのでしょうか

ですから、自覚症状がなくてもよい状態を続けるために薬は続ける必要があります。ですから結果的には飲み続けることが多いのですが、生活習慣改善の効果が出てくれば薬をやめることができる場合もあります。しかし、その場合も定期的な検査は受けましょう

高血圧の薬物療法の効果 

全世界で行われた降圧療法の効果を集計。1998年まで52348人を対象としたものです。心筋梗塞、脳卒中、閉塞性動脈硬化症など、いずれの合併症も降圧薬よる降圧により減少したことが報告されています。つまり血圧の数字が下がるだけでなく、合併症も減らすことができたのです。

高血圧と痴呆症

痴呆症の原因は主として、アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆です。そのうち、脳血管性痴呆の主な原因は脳卒中です。脳卒中の主な原因は高血圧です。そこで、高血圧の治療と痴呆症の発生率を比較した報告があります。それによると、60歳以上の高血圧患者さんを治療することにより痴呆症の発症を50%に減らすことができた、とされています。

高脂血症の薬物療法の効果

これは多くの報告がありますが、日本で行われた研究ですが、高コレステロール血症の日本人男性5640人に対し、薬物療法を行い5年間追跡調査しました。脳梗塞、虚血性心疾患ともに発生率は低下しました。コレステロールの数値だけでなく、合併症も減らすことがわかりました。また、興味深いことは、きちんと薬を飲んだ人の方が、よりコレステロールも低下し、虚血性心疾患、脳梗塞の発症もより低下したことが示され点です。やはり、薬は飲み始めたらきちんと飲んだ方がよいのです。

糖尿病の薬物療法

イギリスのUKPDSという有名な研究です。糖尿病の治療を行った人たちのうち、コントロール良好群(A: HbA1c<7.0)2729例とまあまあ群(B: HbA1c<7.9)1138例に分けて比較しました。網膜症、腎症など糖尿病の合併症や動脈硬化の合併、さらに死亡率も、コントロール良好群で有意に低くなりました。糖尿病の治療もやはりしっかり行う方がよいということがわかります。

8 喫煙、飲酒について

禁煙も重要です。その理由はいくつかあります。

しかし、実際にはたばこをやめるというのは大変な努力がいります。多くは、禁煙によってニコチンの禁断症状が生じるために難しくなります。最近ではそれを和らげながら禁煙を進めていくためのニコチンガムや貼り薬がありますので、利用するのもよいでしょう。

アルコールの適量

医師とのかかわり

生活習慣病は長くつきあっていかなければならない病気です。ですから、医師との関わりも長いものとなっていきます。かかりつけの医師とは、自分の生活習慣、体質などについてよく話し合ったり、検査の目的や治療の目的についてもよく確認し合え、また、もし薬が合わないと思ったら遠慮なく相談できるような関係を持つようにしましょう。

検査結果の利用の仕方

健康生活と健康寿命

日本は世界一の長寿国であり、また、健康寿命も長い国です。健康寿命というのは人の手を借りずに生活できる年齢のことです。アメリカのある大学卒業生を40年間追跡調査した研究があります。それによると、喫煙習慣があり、肥満で、運動習慣のない人たちにくらべ、喫煙習慣がなく、肥満でもなく、運動習慣のある人たちの方が、健康寿命が、10年以上長かったという結果が出ています。

生活習慣の違いによって健康寿命が違ってくるわけですが、生活習慣を改善するのは今からでも遅くありません。今日お話ししたように、病気がわかってからでも、生活習慣の改善の効果はあるのです。

9 まとめ

今日の話が、これからの皆さんの生活習慣改善に役立ち、健康な生活を送る助けになれば幸いです。

ホームへ