新型インフルエンザウイルスに対するワクチン

東南アジアを中心に散発的な流行が見られているトリインフルエンザですが、今のところそのウイルスによる人から人への感染による流行は見られていません。しかし、いつそれが起こってもおかしくない状態といわれています。インフルエンザウイルスの型として、H5N1といわれるこのウイルスは、鳥から人へ感染した症例の分析から、病原性が高いウイルスであることがわかっています。そして、今まで誰もかかったことがないウイルスによる感染症は、急速に広がり、多くの感染者と重症者が発生し、その規模は1918年に世界的に猛威を振るったスペインカゼ並みになると予想されています。それを防ぐ第一の方法はワクチンとなるわけですが、今、その開発が急がれています。

今回紹介する論文は、その成果の一つで、普通のインフルエンザワクチンが鶏卵を使って作られているのに対し、このワクチンは細胞培養法という方法で作られ、有効性を接種者の血清中にできたウイルス中和抗体の有無で判定しています。New England Journal of Medicine 2008年 6月 12日号(vol 358: 2573- 2584)に発表されました。

18〜45歳の健常人275人を対象に行いました。不活化したウイルスから細胞培養法でワクチンを精製しました。アジュバントという免疫性を高める成分を加えて、ワクチンを3.75μg、7.5μg、15μg、30μg、そして、アジュバントなしで7.5μg、15μgという6通りの量を3週間あけて2回接種しました。最終的に6週間後に血清中の抗体価を測定し、有効性を判定しました。

その結果、アジュバントなしの7.5μg、15μg接種が最も抗体がよくできていました。1回の接種では、アジュバントなしの7.5μg、15μgでそれぞれ40.5%、39.5%、2回の接種で、76.2%、70.7%という結果でした。副反応として注射部位の疼痛が9〜27%、頭痛が6〜31%に認められましたが、この割合は通常のインフルエンザワクチンとそれほど大きなさはありません。

流行しているウイルスの型が判明してからワクチン作成までの期間については、従来の鶏卵を用いたワクチン精製では22週かかるのに対し、細胞培養法では12週でワクチンを作ることができ、その点ではこの報告は大変有意義なものといえます。以前このホームページでも紹介した、新型インフルエンザに対するワクチンの研究(こちら)では、鶏卵を用いた方法で作成しており、投与量も90μg必要というものでした。それに比べると2年間で大変な進歩が見られたといえます。しかし、70%以上の人に抗体が作られたということは、ワクチンの成績としてはまずまずということになるようですが、抗体が作られなかった人が30%もいるわけですし、抗体が作られた人たちでも、実際にそのワクチンでどの程度感染を防ぐことができるかはまだ未知数です。

医学の進歩で、新型インフルエンザに対する予防も着実に進んできています。新型インフルエンザが現実のものとなる前に、その対策が実現し、多くの人が救われることを願いたいものです。

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