食事のパターンとアルツハイマー病の予防

近年、高齢者の認知症が増えていることが大きな問題となっています。認知症の原因には、脳梗塞や脳出血などの後遺症として起こる、脳血管性認知症に加え、アルツハイマー病やアルツハイマー型認知症があることが知られています。アルツハイマー病と生活習慣について調べた研究は多く、以前このホームページでも紹介したことがあります(こちら)。栄養面では、いわゆる地中海食といわれる食事がよいというデータがあり、すなわち、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸の豊富な食事、反対に動物性脂肪を控えた食事などに、アルツハイマー病の予防効果があるのではないかということが指摘されています。
今回紹介する論文は、対象者のさまざまな食事パターンを分類し、アルツハイマー病の予防効果があるとされてきた栄養素を多く含み、反対にアルツハイマー病になりやすいとされてきた栄養素を少なくした食事パターンの人では、実際にアルツハイマー病の発症はどうなのかを検討したものです。
Archives of Neurologyオンライン版2010年4月12日号に掲載されたものです。
ニューヨークで行われた調査で、65歳以上(平均77.2歳)の認知機能の障害のない2,148人の男女を対象としたものです。約1.5年ごとに認知機能の検査を行いました。平均3.9年のフォローアップ期間中に253人にアルツハイマー病と診断される認知機能障害が認められました。対象者全員の食事は、次の7つの栄養素によって分類されました。すなわち、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、ω3不飽和脂肪酸、ω6不飽和脂肪酸、ビタミンE、ビタミンB12、葉酸の7つです。飽和脂肪酸は摂取量が少ない方がアルツハイマー病にはなりにくいと考えられており、それ以外は、多く摂取している方がなりにくい、と考えられています。
結果は、飽和脂肪酸を多くとり、他の栄養素をあまりとっていない人たちの中からは、アルツハイマー病になった人は16%だったのに対して、飽和脂肪酸は少なく、他の栄養素は多く摂っている人の中からは7%に過ぎなかったという結果でした。つまり、後者のような食事をしていると、アルツハイマー病になるリスクが3分の1以上減る、ということになります。
これらの栄養素がなぜ効果があるのかですが、ビタミンB12や葉酸は、血液中のホモシステインを減らすことにより、ビタミンEはその抗酸化作用により、脂肪酸については動脈硬化、血栓形成、炎症などに働くことにより、アルツハイマー病の発病を抑えると考えられています。
この結果について、論文の著者の一人であるNikolaos Scarmens博士は、New York Timesのインタビューに以下のように答えています。「これは決して、アルツハイマーの発症リスクと食事パターンの間の原因と結果の関係を証明するものではない。しかし、これらの食事が他の疾患に対してはよい効果があることは既に分かっている、」と述べ、アルツハイマー病にも効果があるといういう感触を述べています。
具体的にはどのような食事をすればよいかというと、サラダドレッシング、ナッツ類、魚、トマト、鶏肉、アブラナ科の野菜類、果物、緑色の葉野菜などを多くとり、高脂肪の乳製品、赤肉(牛肉、豚肉)、内臓の肉、バターなどは控える食事、ということになります。ドレッシングというのは、オリーブオイルを多く使ったものを指します。

日本人にとっては、オリーブオイルはなじみが薄いですし、日本人の食事では塩分摂取量がどうしても多くなりがちなので、塩分摂取量とアルツハイマー病との関連も知りたいところです。そのような研究結果が報告されたらまた紹介したいと思います。
食事の習慣というのはなかなか変えるのは難しいと思いますが、少し意識してみると変わって行くものだと思います。

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