ココアの効果ー長期間の効果ー

以前、テレビ番組でも取り上げられた有名な話ですが、ココアが体にいいらしい、というのはよく知られています。それは、ココアには、ポリフェノールが多く含まれており、血圧を下げたり、血管の機能がよくなったり、インスリン感受性*がよくなるなどの効果が認められているからです。従って、”ココアが体にいい”、”ココアをとると血圧が下がる”といった話になるわけです。しかし、長期間ココアをとり続けたらどうなるか、ということはまだわかっていませんでした。

今回紹介する研究は、高齢の男性のココアの摂取量と、血圧の変化、総死亡率、心血管疾患による死亡率との関連を調べたものです。オランダで行われた研究で、Archives of Internal Medicine 2006 年2月27号(2006, 166: 411-417)に掲載されたものです。

対象となったのは、65歳〜84歳の男性で、心血管疾患の既往歴がなく、糖尿病、がんなどの危険因子もなく、高血圧の治療もうけていない470名です。ココアの摂取量で3グループに分けました。一日2.25g以上の高摂取群、一日0.5~2.25gの中摂取群、それ以下の低摂取群です。こらの3グループの人たちの間で、コレステロール値、喫煙習慣などに差はありません。ちなみに、ミルクチョコレート100gに含まれるココアが30gです。ココア飲料100gに含まれるココアが1.5gです。

血圧について:ココアの高摂取群、中摂取群、低摂取群で血圧の平均はそれぞれ、147.0/82.2mmHg、148.8/83.7mmHg、149.6/84.5mmHgと、ココア摂取量が多いと血圧が若干低い傾向がみられました。血圧が2mmHg違うということは、血圧計の目盛り一つ分の違いであり、実際の測定の場では誤差範囲ともとれる程度かもしれませんが、常に2mmHg違うとなると意味はあるだろうと思います。それが次の死亡率に現れます。

死亡率について:15年後、470名のうち314名は何らかの原因で亡くなっています。心血管疾患で亡くなった人は152名でした。ココア摂取量で分けると、高摂取群では92名が亡くなり、そのうち心血管疾患では44名が亡くなっています。同様に、中摂取群では100名、50名、低摂取群では122名、58名でした。低摂取群の死亡率を1としたときの高摂取群の死亡率の相対危険率は、総死亡で0.57、心血管疾患で0.58でした。つまり、ココアを多くとっている人ほど死亡率は低かったということができます。

これまで、短期間の効果については、1日100gのダークチョコレート(日本ではブラックチョコレートに相当すると思われます)を2週間食べると血圧が11.9/1.8mmHg下がるという報告がありました。しかし1日46gでは効果がないという報告もあり、大量のココアをとらないと血圧は下がらないと考えられていました。この報告にある1日4.2gのココアというのは10gのダークチョコレートに相当し、降圧効果があるという100gの1/10にすぎません。従って、長期間とるのであればそれほど大量でなくても効果は得られるのかもしれないということは言えそうです。

死亡率低下の背景:血圧効果作用はそれほど劇的でない割に死亡率が下がったのは、ココアの降圧以外の作用によると考えられます。インスリン感受性*、血小板機能の抑制、LDL酸化**(超悪玉コレステロールとも呼ばれています)の抑制、血清コレステロールの是正作用などによると考えられています。

今回の報告は男性の症例ですが、女性でもおそらく同様の結果になるのだろうと推測はできますが、それはこれからの研究の成果を待ちたいところです。

確かにココアにはいろいろよい効果があるようです。でも、チョコレートの食べ過ぎはカロリーオーバー、脂肪のとりすぎにつながります。ココア飲料なら砂糖は控え、チョコレートはブラックにしましょう。


(注)*インスリン感受性:血糖値を下げるホルモンであるインスリンが、体の中で効いて血糖値を下げるためには、細胞の側がインスリンにきちんと反応することが必要です。その反応の程度を表すのがインスリン感受性という言葉です。インスリン感受性が高いということは少しのインスリンでも血糖値が十分下がるということを意味します。逆にインスリン感受性が低いということは、インスリンが分泌されても血糖値が下がらないことを意味します。また、その状態をインスリン抵抗性が高いともいいます。ついでにいうと、インスリン抵抗性が高くなる原因は、内蔵脂肪から分泌されるアディポネクチンという物質であることもわかっており、内蔵脂肪の多い人はインスリン抵抗性が高い、ということがわかってきました。その状態でさらにいくつかの条件を満たす状態をメタボリックシンドロームとも呼びます。メタボリックシンドロームも高血圧、高脂血症、糖尿病などと同じように動脈硬化が非常に起こりやすくなります。メタボリックシンドロームについてはこちらもご覧下さい。

 

**LDLの酸化:いわゆる悪玉コレステロールであるLDLコレステロールは血管壁に沈着し、プラークを形成します。酸化されたLDLは、ふつうのLDLよりさらにプラーク形成能が強く、動脈硬化を起こしやすいとされています。その酸化を抑えるのが抗酸化物質であり、その代表がポリフェノールで、ポリフェノールを多く含む食品が赤ワイン、緑黄色野菜、ココアなどというわけです。

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