生活習慣の改善で糖尿病の発症を予防

糖尿病は遺伝的な要素に肥満や運動不足が加わると発病することがわかってきました。今回、境界型糖尿病の患者さんたちに生活習慣改善を実践していただき、糖尿病の発症が抑えられたという論文が発表されました(New England Journal of Medicine 346, 393- 403, 2002)。似たような研究は以前にもこのホームページでも紹介しました(こちら)が、今回の研究は対象となった人数も多く、薬の効果も検討している点が新しいこととなっています。

対象となったのは25歳以上で、BMI 24以上(アジア系は22以上)の肥満があり、空腹時血糖値95-125、75gブドウ糖負荷試験の2時間値が140〜199の人たちです。ちなみに空腹時血糖が110以下でかつ75gブドウ糖負荷試験の2時間値が199以下であれば正常、空腹時血糖値が126以上あるいは2時間値が200以上であれば糖尿病と診断されます。したがって対象となった人たちは正常でも糖尿病でもない境界型の人たちです(いわゆる”糖尿病の気がある”状態といえばわかりやすいかもしれません)。このような人たちは糖尿病を発症しやすいことがわかっています。

これらの人たちを3つのグループに分けました。

(A) 一般的な指導を行ったグループ(1082人)
(B) メトフォルミンという薬を投与された人たち(1073人)
(C) 強力な生活習慣改善を行った人たち(1079人)
の3グループです。
糖尿病発症率を各グループで比べてみると、年間の発症率を100人中何人かで表すと、(A) グループは11.0人、(B) グループは7.8人、(C) グループは4.8人でした。
このように(B) グループのメトフォルミンの投与も、(C) グループの生活習慣改善もいずれも糖尿病の発症予防に効果があったというのです。糖尿病の発症が薬によって抑えられたというデータもこの研究が初めてのものですが、なにより薬の投与よりも生活習慣改善の方が、より糖尿病発症予防効果が大きかったということが大事なポイントです。

では、(C) グループの人たちにはどんなことが行われたのでしょうか。

低カロリー、低脂肪の食事を実践し、少なくとも週150分のウォーキングなど運動療法を行い、7%の体重減少を成し遂げ維持することを目標としました。そのためにまず、食事、運動についての個別指導を最初の24週間の間に16回にわたって受け、その後は1ヶ月に1回の指導を受け、生活習慣改善の重要性を認識させるという指導を徹底させました。この指導によって24週の指導の時点で50%の人が、38%の人はその後も7%以上の体重減少を維持できていたということです。そのような徹底した指導により生活習慣を換えたというわけです。

病気にもいろいろありますが、このように”気がある”状態から発病するのを防ぐ方法が科学的に証明されている病気はあまりありません。”糖尿病の気がある”と診断された患者さんはいろいろな考え方をされるかもしれません。まだ”気がある”だけで病気じゃないとたかをくくってしまう方もおられるかもしれません。しかし糖尿病はひとたび発病して、コントロールの悪い状態で何年もすぎてしまうと動脈硬化が進み、合併症を起こしてしまいます。予防方法があり予防効果も確認されているのですから、生活習慣の改善に前向きに取り組んでみてください。そして肥満の方では体重を減らすこと、このデータによれば7%の体重減というのはひとつの目安と考えてよいと思います。つまり体重70kgの人の場合、65kgに減量することです。是非頑張りましょう。

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