リウマチ教室 第1回 関節リウマチの治療と日常生活

平成17年10月24日(月)、26日(水)

今回、関節リウマチ患者さんを対象とした”リウマチ教室”を始めることに致しました。関節リウマチについては、患者さんにとって大切な情報が得にくく、一方では、患者さん達を惑わすような情報も氾濫しています。普段の外来では十分なお話もできていないと思い、このような時間を作らせていただきました。ご自身の病気について正しく理解し、治療の内容や薬の特徴について理解を深めることによって、不安も和らぎ、今後の療養にプラスとなることを期待しています。

リウマチ教室の目的は、次のように考えています

本日は第1回目として、治療と日常生活の工夫などについてお話しさせていただきます。

本日の予定

  • 関節リウマチの治療について
    • 薬物療法
      • ステロイド
      • 非ステロイド消炎鎮痛剤
      • 抗リウマチ薬
      • 生物学的製剤
  • 日常生活の工夫
  • リウマチ体操
  • 質疑応答

関節リウマチの治療は、日常皆さんが心がけてやっていくことと、薬物療法が大切です。また、薬の副作用を少しでも少なくする工夫も大切です。

関節リウマチの治療

関節リウマチについて

関節リウマチという病気について簡単にまとめましょう。関節リウマチは、関節の滑膜に炎症が起こり、痛みと腫れが起こり、その炎症が広がると、関節の構造も障害され、関節の働きにも影響が出てしまう病気です。関節の滑膜の炎症が起こる原因には、免疫の異常があるといわれています。したがって、関節リウマチの治療には、免疫の異常をただし、炎症を抑える薬物療法と、関節の働きの障害を少しでも減らし、回復させるための日常生活の工夫が大切です。今日はまず薬物療法から述べたいと思います。

関節リウマチ治療薬の3本柱

今述べた、関節リウマチの免疫異常を正し、炎症を抑えるためには大きく分けて3種類の薬があります。その3つは関節リウマチの治療の柱と考えられています。つまり、ステロイド、非ステロイド消炎鎮痛剤(いわゆる痛み止め)、この2つは主に、表面にあらわれている痛みや腫れといった炎症を抑えます。そして抗リウマチ薬は関節リウマチのもととなっている免疫異常を直します。

関節リウマチの治療計画の変遷

かつては、関節リウマチの治療は、非ステロイド消炎鎮痛剤から始め、効果が不十分なら弱い抗リウマチ薬を併用し、それでも不十分なら強めの抗リウマチ薬やステロイドを使うという、ピラミッド計画といった方法がとられていました。しかし、近年、関節リウマチの治療は早期より強めの抗リウマチ薬を使った方が予後がよい、つまり、関節の障害などの後遺症も少なくてすむ、ということがわかってきました。したがって、現在は抗リウマチ薬を中心に、症状に応じてステロイドや非ステロイド消炎鎮痛薬を使うという方法になってきています。

関節リウマチ患者さんの予後が改善しているという論文をこのホームページでも紹介しました。こちらからどうぞ。

薬物療法について、順に解説していきましょう。

ステロイドについて

関節リウマチに対するステロイドの効果

しかし、ここで問題となるのは、副作用です。皆さんがステロイドで不安になるのはこの点が大きいと思います。副作用について理解し、その対策を講じることによって、ステロイドの副作用は少なくすることができます。

ステロイドの副作用

ステロイドの副作用対策をまとめると次のようになります

非ステロイド消炎鎮痛剤

抗リウマチ薬

関節リウマチの治療に使われる抗リウマチ薬(免疫抑制剤を含む)には次のようなものがあります。

現在は、ブシラミン、スルファサラジン、メソトレキサートが主流となっており、それでも効果が得られないときには、レフルノミド、タクロリムスなどの投与が検討される、といったケースが多いかと思います。その他の抗リウマチ薬も、他の抗リウマチ薬と併用することにより効果が得られること多くあります。

今回は、個々の抗リウマチ薬の解説は省略しますが、抗リウマチ薬全般に共通した事柄を解説します。

抗リウマチ薬の特徴

つぎに、近年の関節リウマチの治療を大きく変えることになると期待されている、新しい薬を紹介します。それは、生物学的製剤といわれるものです。そのような変わった名前が付いているのは、今までの薬が化学的に合成した化合薬であるのに対して、生物学的製剤はヒトが持っている抗体あるいは、受容体といわれる構造を遺伝子工学の力で作ったものであるからです。

関節リウマチの根本原因はまだ解明されていませんが、かなり原因に近いところで起きていることはわかってきました。その一つが、関節リウマチの炎症にはTNF-αという物質の影響が大きいということです。前述した抗リウマチ薬も、多かれ少なかれ、TNF-αという物質の産生を抑えるという働きを持っています。つまり、関節リウマチの治療においては、そのTNF-αを抑える、ということがポイントとなるのです。そこで開発された薬が、TNF-αに対する抗体や、TNF-αの受容体を薬とした、インフリキシマブ(商品名レミケード)、エタネルセプト(商品名エンブレル)といった薬なのです。

生物学的製剤の特徴

そのような製剤ですが、関節リウマチに対する効果にはすばらしいものがあります。

生物学的製剤の効果

しかし、まだまだ問題点もあります。

生物学的製剤の問題点

現在の関節リウマチの薬物治療は、早期から強めの抗リウマチ薬を使って炎症を抑え、それでも十分効果が得られなければ生物学的製剤の使用を考える、という方法がとられるようになり、関節リウマチの予後も大きく変わってきました。(関節リウマチの予後の改善に関する論文についてはこちらもご覧下さい)

以上、関節リウマチの薬物療法について解説しました。つぎに、日常生活での様々な工夫について紹介しましょう。この点はもしかすると患者さんの方がいろいろな知恵を持っていらっしゃるかもしれません。


関節リウマチの一般療法について

高血圧、糖尿病などでは、食事療法や運動療法など、患者さん自身が取り組むべきものがたくさんあり、また、それらの効果もはっきりしています。それらの疾患では、患者さんの生活習慣に原因がある場合も多く、生活習慣改善の必要性がわかりやすいと思います。しかし、関節リウマチでは、原因は患者さんの生活習慣ではありません。その点が患者さんが、治療に対して受け身になってしまい、自分は何をやってよいかわからず悩んでしまう要因ともなっているのではないかと思います。治療効果を上げ、関節の機能を維持していく上ではこれから紹介するような日常生活の工夫がとても大切になってきます。

ここでは次のようなことを解説します。

日常生活と一般療法

薬の飲み方、使い方について

食事療法のポイント

日常生活の工夫

安静を上手にとるようにしましょう

リウマチ体操

具体的な方法については、リウマチ情報センターのホームページの、リウマチ体操のページや、参考文献(1)などを参考にしてください。

大腿四頭筋の運動

特に、膝が痛い場合、大腿四頭筋という太ももの筋肉を弱らせないようにしておくことが大切です。

外反母趾対策

外反母趾の予防と治療には、足の体操や靴の工夫が大切です。

日常生活動作の工夫、特に手に関して

リウマチの関節保護

痛みに対する対処

まとめ

<質疑応答>

Q:ステロイドを長期間続けることについての不安なのですが

A確かに薬は少ないに越したことはありませんが、ステロイドによって痛みや腫れが軽減され、日常生活も楽になります。一方で副作用も気になります。副作用対策をすることにより、副作用はできるだけ減らすことができます。副作用をできるだけ減らし、生活の中でステロイドの効果を最大限に生かすように考え、副作用対策も続けていくという考え方でいかがでしょうか。ステロイドの量は、病状を確認しながら極力減らすようにしていきたいと思います。

Q:一度飲み忘れただけで起き上がれないくらい具合が悪くなった。また飲んだら翌日には元に戻った、そんなに効くことがかえって不安

A:確かにステロイドの効果は劇的なことがあります。特に、投与量が多い場合や、抗リウマチ薬がまだ効いていなくて、ステロイドで症状を抑えているようなときにはそのようなことが起こり得ます。抗リウマチ薬が効いてステロイドが減るまでは特に、飲み忘れに気をつけてください。

Q:子供や孫への遺伝は?

A:リウマチは遺伝性の疾患ではありません。確かに、親、兄弟などの親戚にもリウマチの患者さんがいらっしゃる場合は多いです。しかし、たとえば、一卵性双生児の場合で、一方の方がリウマチでも、もう一人も必ずリウマチになるわけではありません。つまり、遺伝子が全く同じ一卵性双生児でも必ず同じ病気になるわけではありません。関節リウマチの発病は遺伝だけで決まるわけではありません。ですからあまり心配しすぎる必要はありません。ただし、もし、こわばりや関節痛があるようでしたら早めに受診して下さい。

Q:リウマチは左右対称に起こるといわれているが、今は片方だけですが、いずれ反対にも起こるのでしょうか

A:リウマチの関節炎は左右対称に起こるといいますが、必ずそうなるわけではありませんので、あまり心配することはありませんが、もし反対にも症状が現れた場合は薬が十分効いていないということですから、治療の検討が必要であることを意味しています。

Q:関節リウマチは難病の認定などは受けられるのでしょうか

A厚生労働省の特定疾患、いわゆる難病認定が受けられるのは、関節リウマチの中でも、血管炎を併発した、悪性関節リウマチというタイプの関節リウマチの場合だけです。また、関節リウマチの患者さんで、障害の程度が重ければ身体障害者手帳の交付を受けることはできます。

Q:リウマチ体操は一日に何回くらいやったらいいのですか

A少なくとも風呂上がりの筋肉のほぐれているときには一回行って下さい。それ以外に、日中もう一度行うとよいでしょう。手に関しては、洗面器などにお湯を張って、そこで手を暖めてから行うとよいでしょう。一回に、各運動を、10〜20回を目安に、痛みが増さない、痛みが残らない、というのを目安に行って下さい。

Q:プールで歩くのがいいと聞きますが、冷えすぎてよくないということはないですか

A:市内の温水プールであればまず冷えすぎてよくない、という心配はありません。膝、股関節に炎症がある場合、プールがお近くにあるようでしたら是非行って下さい。

Q:リウマトレックスを飲み忘れた場合はどうしたらよいでしょうか

A:たとえば、毎週木曜日の朝、晩に服用しているとします。木曜日の朝のみ忘れたのを木曜日の昼に思い出したとします。その場合は、木曜日の晩と金曜日の朝に服用して下さい。リウマトレックスは十二時間あけて服用することが重要です。また、週に一回ですが、その方法ならのみ忘れがあっても半日のズレですみます。次の週はまた木曜日の朝に服用して下さい

<参考文献>

  1. 改訂新版、膠原病を克服する 療養のための最新医学情報、橋本博史著、保健同人社 (関節リウマチだけでなく膠原病全般について詳しく書かれています)
  2. 膠原病・リウマチは治る、竹内勤著、文春新書(関節リウマチの原因、最新治療、生物学的製剤などについて詳しく書かれています)
  3. リウマチ情報センターのホームページ(関節リウマチについて様々な知識の情報源となります)
  4. 慢性関節リウマチ患者への日常生活指導、安藤聡一郎、リウマチ科、2002年2月号、632-640(私が書いた総説です、医師向けです)

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