高齢者の身体活動と死亡率の関係

運動を始めるのは今からでも遅くない?

運動療法は生活習慣病の予防と治療に非常に大切です。前回は、食物繊維を多く摂るという食事療法が、高齢になってからでも効果があるという研究を紹介しました。今回は、運動療法でも同様に、65歳を過ぎてからでも運動を習慣にすると良い効果が期待できるという研究(JAMA 2003年5月14日号、vol 289, p2379- 2386)が発表されましたので紹介します。

アメリカにおける研究で、65歳以上の白人女性を対象に行われました。1986年〜1988年にかけて研究が開始され、5.7年後の1992年〜1994年に再調査を行い、この時点で7553人を追跡調査することができ、トータルで12.5年間の追跡調査を行いました。この間の身体活動、健康状態、生活習慣、などが検討されました。

対象者には、毎日どのくらい歩くか、その他の身体活動(ダンス、ガーデニング、エアロビックス、スイミングなど)はどの程度かといったことを尋ね、一週間あたりの運動による消費カロリーを計算しました。身体活動の合計で1週間あたりの消費カロリーを、163kcal未満、163〜503kcal、504〜1045kcal、1046〜1906kcal、1907kcal以上の5段階、ウォーキングによる消費カロリーで、1週間あたり、70kcal未満、70〜186kcal、187〜419kcal、420〜897kcal、898kcal以上の5段階に分けました。また、5.7年後の2度目の調査時に、以前から運動量が、少ないまま変わらない、多いまま変わらない、増えた、減ったの4グループにも分けて検討しています。

調査期間の12.5年間に亡くなった方について、その死亡原因と身体活動量を検討しています。

まず、運動量と死亡率との関係については、1週間の運動量の最も少ないグループの死亡率を1.00としたときの各グループの死亡率を表したものは以下のような結果となりました。

1週間の運動による消費カロリー 総死亡 心血管系疾患による死亡 がんによる死亡
163kcal未満 1.00 1.00 1.00
163〜503kcal 0.73 0.65 0.77
504〜1045kcal 0.77 0.70 0.90
1046〜1906kcal 0.62 0.60 0.62
1907kcal以上 0.68 0.58 0.85

すなわち、運動習慣のある人の方が、原因に関係なく、死亡率が低く、特に心血管系疾患による死亡は少ないことが示されました。

ちなみに、体重50kgの人が30分間の運動で消費するカロリーは、ウォーキング(60m/分)80kcal、軽めのジョギング 208kcal、ダンス 86.7kcal、自転車(平地、時速10km)120kcal、ゴルフ 125kcalなどとなっています。体重の多い人は消費カロリーも増えます。ご自分の、1週間の運動による消費カロリーをちょっと計算してみて下さい。

次に、こちらがこの研究の本題なのですが、身体活動量が変化した場合どうかという調査です。これによると、身体活動がもともと少なく、調査期間中も少ないままだった人たちの死亡率を1.00とした場合の、身体活動量の変化による死亡率の変化は以下のようになりました。

身体活動 総死亡 総死亡(65〜74歳) 総死亡(75歳以上)
少ないまま 1.00 1.00 1.00
多かったが少なくなった 0.92 0.63 0.99
少なかったが多くなった 0,52 0.33 0.60
多いまま 0.68 0.60 0.69

すなわち、身体活動がもともと多い人や、少なかったが増やした人たちは死亡率が低いという結果が出たのです。

この研究では、著者らも述べていますが、運動量は本人の自己申告だった点や、症例の選択が公平ではない(運動量が増えた人たちは、運動量が少ないままだった人たちに比べもともと健康な人たちだったのではないか)などの問題点はあるものの、65歳を過ぎてからの運動習慣の変化にも効果があることが示された点は大きな意味があると思います。

他の研究では、65〜74歳の男性では身体活動が増えると虚血性心疾患の死亡率が増えるという結果が一つだけ出ていますが(Scand J Med Sci Spors. 1994, 4, 57- 64)、他のいくつかの研究も身体活動の増加は死亡率の低下につながるという結果が出ています。

この論文の著者らは、1日約1マイル(1.6 km)よけいに歩く習慣をつけると6年間の死亡率が40〜50%減るという計算になると述べています。

前回紹介しましたように(こちら)、食事の習慣は年をとってから変えても決して遅くはありません。同様に、運動習慣をつけることも65歳を過ぎてからでも遅くはないのです。今までよりちょっとでも多く歩く習慣をつけましょう。

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