第13回健康講座 高血圧はなぜ治療が必要か

高血圧の患者さんは60歳以上では6割にも達するといわれるほど多い病気です。今回は、高血圧とは何か、放っておいたらどうしていけないのか、といった点について復習し、血圧の自己管理のための自宅血圧測定の方法についても解説します。

血圧とは

血圧の歴史

1911年以降、アメリカの生命保険会社が加入者の初診時血圧と予後について検討をはじめました。

1935-1954年、米国生命保険会社26社による400万人の初回血圧と平均余命を調べた結果、初回の血圧が高いほど平均余命は短いことが明らかとなった。

この結果を受けて、より科学的な見地から血圧の影響を調べるため1948年にアメリカの町、フラミンガムで全住民の調査が開始されました。

調査が開始されて8年経過した時点で、初回血圧と虚血性心疾患の発症率に明らかな相関関係が認められました。血圧が140/90を越えると、高ければ高いほど虚血性心疾患の発症率が高くなることが明らかとなったのです。

日本人と欧米人とでは、高血圧の合併症に違いがあり、欧米人では高血圧は虚血性心疾患と関連が深く、日本人では脳卒中と関連が深くなっています。

日本人における調査

日本では1961年から九州の久山町で全住民の調査が開始されました。

.血圧と脳卒中

初回の血圧と脳梗塞の発症に相関が見られました。

脳梗塞だけでなく、脳出血も同様に初回血圧と相関が認められました。

いずれも初回血圧が高ければ高いほど発症率が高くなっていました。

最近のデータでも同様で、1980年厚生省疾患基礎調査対象者1万人を14年間追跡調査したNIPPONN DATA 80でも同様の結果が得られています。

すなわち、日本人においては、血圧が高いほど脳卒中死亡率が高いことが示されています。

高血圧の合併症は、虚血性心疾患や脳卒中だけでなく次にあげるような様々な合併症があります。高血圧を放っておくとこれらの合併症になりやすくなってしまいます。

高血圧の合併症

問題は、血圧を下げればこれらの合併症は予防できるのだろうか、という点です。それについては多くの研究が高圧による合併症の予防効果を示しています。

全世界で行われた降圧療法の効果の結果を集計したデータがあります(Lancet 335: 827- 839, 1990)。1998年まで52,348人を対象とした結果となっています。降圧薬による治療により、脳卒中(39%)、心筋梗塞(16%)、血管病(21%)といずれの合併症も減少しています(カッコ内の数字は降圧薬による合併症阻止率)。

では、高血圧は放っておくと合併症があり、治療すれば予防できるとなると、正しく診断し治療することが大切となります。高血圧の診断はどうなっているでしょうか。

高血圧の診断

成人における血圧の分類

収縮期血圧 拡張期血圧
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ <85
正常高値血圧 130-139 または 85-89
軽症高血圧 140-159 または 90-99
中等症高血圧 160-179 または 100-109
重症高血圧 >180 または >110
収縮期高血圧 >140 かつ <90

外来での複数回の血圧値の平均値で、上記の基準を用いて高血圧を診断することになっています。

では、高血圧の場合、どこまで血圧は下げたらよいでしょう。降圧目標があります。

高血圧の降圧目標

これを目標に血圧を下げるわけですが、治療にはどんなものがあるかおさらいしてみましょう。

高血圧の治療

食事と運動について解説します。

減塩の効果

無塩食にすると3週間目頃から血圧は劇的に下がってくることがわかっています(Am J med 4: 545-577, 1948)。

実際には無塩というのは困難ですが、塩分一日6グラムまでは降圧効果が見られます(それ以上とってしまうと降圧効果は見られない)。それで、塩分は一日6グラム、といわれているのです。

また、減塩に加え、飽和脂肪酸や総脂肪は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多くとるようにするとさらなる降圧効果が認められます(このホームページでも紹介した論文(New England Journal of Medicine, 2001, 344, 3-10)です、こちらも参考にしてください)。

運動による降圧効果

運動により血圧は11mmHg /6mmHg 程度下がることがわかっています(Hypertension 9: 245-252, 1987)。ここでいう運動というのは、一日20〜30分の早足のウォーキングでよいとされています。

老人でも(平均75.5歳)同様の結果が認められています。

血圧の治療は、このように日常の生活習慣を改善することが大切です。それとともに血圧測定を習慣づけることもよいと思います。

そこで、自宅血圧の測定をおすすめします。

自宅血圧測定の利点

自宅血圧の欠点

あまり堅苦しく考えずに、時々測ってみて、それを記録しておく、という程度でもかまいません。2週間に1回の外来での血圧だけをみながら治療するよりずっと情報量は多くなり、きめ細かい治療が行えます。

血圧測定のコツ(このHPの自宅血圧測定のすすめのページも参考にしてください)

血圧測定中は

血圧計について

記録の仕方

今回の健康講座では、私の血圧を実際に自動血圧計で測ってみました。すると、普段は高くない血圧が 150/100になっていました。やはり緊張するとそのくらい上がるということがわかりました。ちなみに2回目の健康講座の時には130/84と、普段よりちょっと高くなっただけでした。1回目の方が緊張度も高かったのでしょう。患者さんが”白衣高血圧”になるのもうなずけます。

高血圧は、サイレントキラーと呼ばれるように、放っておけば様々な合併症を起こす怖い病気ですが、生活習慣の改善や薬物療法によりしっかり管理すればそのような合併症を防ぐことができます。そのためには自分の血圧をしっかり把握し管理することが大切だと思います。

<参考文献>

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