第4回健康講座
塩分について
塩は身体に必要ないものでしょうか?
いいえ、とても大切なものです。
人間の身体にはたくさんの塩分が含まれています。血液や、涙、鼻水などをちょっとなめてしまったとき、塩辛かった記憶は誰にでもあるでしょう。体の中の塩分はどのくらいあるのでしょう。
人間の身体の60%は水といわれています。
細胞外液は20%、細胞内液は40%。細胞外液中のNa濃度は150mEq、細胞内液は14mEqです。体重60kgの人では細胞外液は12l、細胞内液は24lとなり、Naとしては2136mEq
、これを塩に換算すると123.9gとなります。塩は体には欠かせないものなのです。
しかし、塩分のとりすぎはよくありません。
日本人は塩分摂取量が多く、高血圧、脳卒中の頻度が高いといわれています。特に東北地方では塩分摂取量が多かったことが知られています。昭和40年代の調査では、大阪地方では塩分摂取量が10g前後で高血圧の頻度も20%程度だったのに対し、秋田県のある地域では塩分摂取量は一日20gに達し、高血圧の頻度も40%に達していたというデータがあります。(疫学的にみた日本人の栄養と循環器疾患の相関、保健同人社、1976)
また、逆にブラジルのインディアンで塩を全くとらない民族があります。彼らの中には高血圧の人は全くいません。しかし、彼らが塩分の多い食事をとるようになると高血圧が増えてくることもわかっています。
このように塩分摂取量が少なければ高血圧にもなりにくいということが示唆されています。
では、減塩すると本当に血圧は下がるのかでしょうか?
これにはいくつかのデータがあります。
データその1
食塩摂取量を5.9g/日まで下げることによって収縮期血圧(上の血圧)が10.3- 4.9、拡張期血圧(下の血圧)が1.3- 4.9低下したというデータがあります。しかも、高齢者ほどその降圧効果は大きかった(Law MR ら.:BMJ 302: 811〜815, 1991)ということが報告されています。
このような報告は若い人を対象にしているものが多いのですが、高齢者を対象としたものもあります。
データその2(高齢者における減塩の効果)
1997年のイギリスの研究です。47人の高齢者(60〜78歳)を対象に行っています。対象者の血圧は123〜205/ 64〜112と、正常から高血圧の人まで様々です。彼らに2ヶ月間の減塩(一日10.4g→6.6g)をしてもらいました。この結果、血圧は平均7.2/ 3.2低下したということです(F P Cappucioら The Lancet, 1997, 350, 850-54)。
データその3(最新のデータ)
最も新しい報告で、このホームページの最新情報のコーナーでも取り上げています(こちら)。軽症高血圧の412人を対象にした検討で、減塩(8.7g→2.9g)により血圧は上が平均16.7下がり、下は平均3.5下がっています。さらにこの研究では減塩以外にある食事をすることでさらに効果を高めています。それについては後述します(F M Sacksら New England Journal of Medicine, 2001, 344, 3-10)。
いろいろな報告がありますが、減塩の効果としてはだいたい、一日1g減塩すると血圧は1mmHg下がるといわれています(河野雄平Medicina, 2000, 37, 386-387)
しかし、減塩について反論があるのも事実です。一例を示します。
データ4(減塩に対する反論)
アメリカでの研究で11,348人(25歳〜75歳)を対象に約20年間の追跡調査(1971〜75年に登録開始。1992年に観察)を行ったものです。聞き取り調査により塩分摂取量によって4グループに分けました。血圧の違い、脳血管障害の頻度の違いが塩分摂取量により違うかどうかを調べたわけですが、血圧は4グループの間で変化はなく、また、塩分摂取量が少ないグループの方が脳血管障害の発生率が高い傾向がみらるという結果でした(Aldermanら Lancet1998, 351, 781-785)。
このようなデータを引用して、減塩しても意味がない、と考えることもできる訳です。しかし、この研究では、塩分摂取量のレベルが違うことを忘れてはいけないと思います。欧米では塩分摂取量は日本人より低く、この研究でも4グループの塩分摂取量は、最も少ないグループは一日3g前後(男性3.6g、女性2.3g)、最も多いグループでも一日8g前後(男性9.6g、女性6.7g)なのです。ですから日本人にはちょっとあてはめられないのではないかと思います。それでは日本人での調査はないかというとこんな研究があります。
データ5(日本人における疫学調査)
1960年代から東北地方で行っている調査で30歳以上、4387人を対象としています。この研究では非常に多くの情報が得られているのですが、ここでは減塩を中心とした指導がもたらした効果について述べます。脳卒中の発生頻度は年々低下するのですが、減塩を含めた十分な指導を行った地域と、最低限の指導だけ行った地域について脳卒中の発生頻度を比較しています。これによると十分な指導を行うことにより脳卒中の発生頻度はさらに低くなる(特に男性で)ということがわかりました(H Itoら Stroke, 1998, 29, 1510- 1518)。
以上のようなデータより、やはり、日本人では塩分摂取量を減らすようにするべきと考えられています。
日本人の一日平均塩分摂取量は12〜13gですが、それを一日6gくらいまで減らすのは問題ないだろうといわれています。
厚生労働省が掲げる塩分摂取量は一日10gです。高血圧の患者さんはさらに減塩をすることが望ましいのです。
そこで、減塩のコツをいくつか紹介しましょう。
日本食にしょうゆはつきものです。そこで、
だしで割った“割りじょうゆ”を用意しましょう。
しょうゆ2に対してダシ1。
割りじょうゆは少量ずつ作って、2〜3日で使い切り、なくなったら新しく作るようにしましょう 。
ラーメンのつゆはどんぶり一杯で塩分は7〜8gになります。そこで、
スープ類は最後まで飲まない
すしも日本人にはなじみが深いものですが、
寿司を食べるとき、しょうゆはネタだけにつけましょう
これについてはこの勉強会で実験を行いました。すしに付いたしょうゆの量を比較してみました。シャリの方につけるとしょうゆは0.6〜0.8g、ネタの方につけると0.15〜0.2gつきました。つまり、このような付け方でしょうゆを(すなわち塩分を)1/3〜1/4に減らすことができるのです。
みそ汁も日本食には欠かせません
みそ汁は昆布、鰹節できちんとダシをとり、具だくさんにする
ダシがよいと味噌を減らしても十分おいしい味噌汁が作れます。
カリウムを豊富に含んだイモ、海藻類を具にすると一層効果的です。
外食では、どうしても味が濃くなりがちです
まず味をみてからしょうゆやソースをかけるようにしましょう
香辛料を上手に使いましょう。
香辛料には塩分は含まれません。こしょう、唐辛子、山椒、からしなどを効果的に使い、味にアクセントをつけ、塩分を減らしましょう。
減塩プラスα
前述の研究の食事では、普通食に比べて、飽和脂肪酸や総脂肪(動物性脂肪)は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多い、という食事をとってもらいました。これによって血圧はさらに低下していたのです。ですから下記に示すような食材を多くとることは、減塩に加え、さらに血圧を下げる上でよりよい効果が期待できます。
カリウム:生野菜、いも類、バナナ、りんごなどの果物、
カルシウム:乳製品、小魚類
マグネシウム:大豆、アオノリ、ひじき、サンマ、アジなど
食物繊維:海草、いも、豆、椎茸、りんごなど
食事療法は日々の積み重ねが大切です。減塩を毎日の習慣として行って下さい。市販されている塩分計も減塩の効果を確認するよい道具となると思います。当院では塩分計を用意して皆さんのみそ汁などの塩分をお測りしていますのでご利用下さい(こちら)。
生活習慣病のページも参考にして下さい。