インフルエンザ治療に対して解熱剤使用に勧告

解熱剤としてよく使われるジクロフェナク(商品名:ボルタレン)が、インフルエンザ脳炎を悪化させる可能性があるとして、11月15日、厚生省はインフルエンザ脳炎の患者さんに対してこの薬剤の使用を中止するよう勧告を出しました(公式のページはこちら)。また、日本小児科学会はジクロフェナクと同系統の解熱剤についても、インフルエンザ治療に際しては慎重に使用すべきとの見解を発表しました。インフルエンザにかかって熱が出たとき、家にある解熱剤を使う場合も注意が必要です。

インフルエンザ脳炎はインフルエンザの合併症の一つで、頻度はまれですが、死亡率も高く(約1/3)、注意が必要です。5歳以下に多く、全国で年間100〜300人が発症するといわれています。

解熱剤には、ジクロフェナクに代表されるような非ステロイド抗炎症剤とアセトアミノフェンの2種類があります。ジクロフェナクは解熱、鎮痛作用が強く、特に、坐薬は即効性もあり、高熱時には解熱剤として威力を発揮します。しかし、この薬を使ったインフルエンザ脳炎の患者さんと、インフルエンザ脳炎の患者さん全体と比較すると、使った患者さんの方が死亡率が高かった(昨シーズンは14倍、一昨シーズンは3倍)ということがわかり(注:インフルエンザ脳炎まで合併した患者さんでの統計です)、今回の勧告となったわけです。その他の解熱剤については、症例数が少なくはっきりした結果は出ていないそうですが、同じ非ステロイド抗炎症剤のメフェナム酸(商品名:ポンタール)では、一昨シーズン死亡率が3倍高かったといわれています。どうしてそうなるのか、メカニズムはまだ明らかとなっていません。

一方、アセトアミノフェンを使用した患者さんではそのような差はなかったということです。つまり、解熱剤としてアセトアミノフェンを使ったインフルエンザ脳炎の患者さんの死亡率は、インフルエンザ脳炎患者さん全体とほぼ同じだったというのです。従って、アセトアミノフェンなら安全だろうと考えられています。

このような結果を受けて、上記のような勧告となったわけです。インフルエンザ脳炎の患者さんにはジクロフェナクは使ってはいけない、と。さらに小児科学会では、脳炎を合併していなくても、インフルエンザの患者さんの解熱剤にはジクロフェナクをはじめとする非ステロイド抗炎症剤の系統のくすりは使わない方がいい、と言っているわけです。また、“インフルエンザに対しては、けいれんを起こしやすい場合などを除き、熱が39℃になるまでは解熱剤は不要”といっている先生もいます(日本小児科学会予防接種委員会委員長 神谷斉先生)。

このことは昨年あたりから指摘されていたため、当院でも、特に小児の解熱剤には注意を払って参りましたが、“たまたま家にあった解熱剤を使った”というような場合はちょっと心配です。必ず主治医に確認して使うようにしましょう。

インフルエンザ脳炎はそれ自体が大変怖い合併症です。インフルエンザワクチンについては、ワクチンをうってもインフルエンザにかかることはある、ということからその有効性には賛否両論ありますが、ワクチンは症状を軽くし、肺炎や脳炎など重篤な合併症を予防する効果はあるといわれています。やはり予防接種は受けた方がよいでしょう。

熱が出たときの対処法はこちらで、インフルエンザ予防接種についてはこちらでも紹介しています。

“ボルタレンを使うと脳炎になる”という意味では決してありません。あくまでも、インフルエンザ脳炎を悪化させる可能性があるということですので念のため。関節痛などには大変良い薬だと思います。

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