第5回健康講座 食物繊維について

食物繊維とは

食物繊維は、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルに次ぐ第6の栄養素と言われています。他の栄養素と違い、人の体の構成成分ではないため軽視されてきた傾向がありますが、便秘、高脂血症、糖尿病、高血圧との深い関わりも明らかとなり、最近その重要性が見直されてきました。

どんなものに含まれるか

食物繊維はどんなものに多く含まれているでしょう。後で詳しく述べますが、海草類、豆類、キノコ類、芋類、果物に多く含まれています。これらの食材をあまり食べなくなったことと、便秘や生活習慣病が増えてきたことと関係があるのではないかと考えられています。

平均的な食事に含まれる食物繊維の量

では、食物繊維はどのくらいとるのがよいのでしょうか。現在、日本人の一日の食物繊維の平均摂取量は15.9グラムといわれています。しかし、実際には20グラム以上はとることが望ましく、厚生労働省も目標摂取量を20〜25グラムとしています。

食物繊維の摂取量はかつては多かった

1950年代には日本人の食物繊維の一日平均摂取量は20グラムを超えていました。しかし、食生活の欧米化が進むとともに食物繊維の摂取量は減っていったのです。和食、特に、海草類、きのこ、芋類をつかった料理が以前はもっと多かったのでしょう。また、洋食では食物繊維がとれないというわけではありません。その点も後述します。

食物繊維の摂取量低下による変化

食生活の欧米化とともにいわゆる生活習慣病の患者さんが増えています。その原因は、総エネルギー摂取量の増加、脂肪摂取量の増加が主たる原因ですが、食物繊維摂取の低下も指摘されています。便秘、大腸がん、高脂血症、糖尿病、高血圧の増加は食物繊維の摂取量の低下とも関係があると考えられています。

食物繊維の作用

では、食物繊維をとると体の中でどんな変化が起こるのでしょう。

食物繊維は腸から吸収されることはなく、便となって排泄されます。腸の中を移動する間にいろいろな働きをしてくれます。以下のような作用が指摘されています。

腸の中で水分を吸収して膨らむ。これによって便の量が増え、便通がよくなります。

腸の中の有害物質を吸着して排泄胆汁酸と結合して排泄される。胆汁酸のもとになるのがコレステロールですから、コレステロールを下げることにつながります。

塩、糖分を吸着して吸収されないようにする。これにより、高血圧、糖尿病に対してよい効果が期待されます。

などです。

では、実際に食物繊維をたくさん食べるようにしたら前述したような病気はよくなったり予防できたりするのでしょうか。それを解説しましょう。

食物繊維摂取量と便秘

サイリウムという食物繊維を一日4グラムとることによって、1週間の便の回数は1.5倍、便の量は1.7倍に増えるといわれています(天然食物繊維でヘルシ−アップ、健康と料理社より)。便秘を治すには他にもいろいろな方法が大切ですが、繊維の多いものを食べるというのがまず必要です。

食物繊維を多くとると大腸がんも予防できると考えられた時期もありましたが、最近の長期間の研究結果でははっきりとした予防効果は認められていません。まだぢちょうがんの予防効果についてはまだ結論はでていないようです。

食物繊維摂取量とコレステロール

食物繊維を多くとるとコレステロールは下がるのでしょうか。この点については、多くのデータがあります。1日2〜10グラムの可溶性食物繊維の摂取により総コレステロールとLDLコレステロール(悪玉)が低下することが指摘されています(Am J Clin Nutr 1999; 69: 30-42)。どのくらい下がるかというと、可溶性食物繊維の代表であるサイリウムという食物繊維を一日10.2グラムとることによる変化を調べた報告があります。これにより総コレステロールが8.9%、LDLコレステロールが13.0%低下するといわれています(Am J Clin Nutr 1999; 70: 466-73)。コレステロールを下げる飲み薬の代表であるスタチン系という薬の効果は、だいたい総コレステロールを20%下げるとされています。ですから、食事だけでも薬の半分近い効果は得られるということになります。

食物繊維摂取量と糖尿病

糖尿病に対してもよい効果があります。1日10.2グラムのサイリウムをとることにより一日の血糖値が11%、昼食後の血糖値が19.2%低下したという報告があります(Am J Clin Nutr 1999; 70: 466-73)。また、以前このホームページでも紹介した論文(こちら)では、食物繊維を大量にとるとどうなるか検討されています。それによると食物線維50グラムをとった患者さんでは、24グラム(これでも十分な量なのですが)をとった患者さんたちに比べ、一日平均の食前血糖は13mg/dl下がり、一日尿糖は1.3グラム減り、インスリン分泌量も減ったそうです(New England Journal of Medicine 2000, 342, 1392〜1398)。

食物繊維摂取量と高血圧

食物繊維だけで血圧が下がったという報告は見つけられませんでしたが、このホームページでも以前紹介した論文(こちら)があります。その研究では、減塩だけでなく、総脂肪や飽和脂肪酸は少なく、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物線維、蛋白は多くとるという食事にすることでさらに血圧が低下したことが示されています(New EnglandJournal of Medicine 2001, 344:3-10)。

意外と摂るのがむずかしい食物繊維

このように体によい効果があり、大量にとっても害や副作用はありませんので、できるだけたくさんとりたいものです。しかし、毎日の食事で食物繊維を多くとるというのは意外と難しいのです。

そこで、食物繊維の多い食材を紹介します。これらを効率よくとることが食物繊維を多くとる近道となるでしょう。カッコ内と写真は食物繊維2グラムを含むその食材の量です。

食材 食物繊維2グラムを含む量
ブロッコリー 45.5g
キャベツ 105.3g
アスパラガス 95.2g
オクラ 40.8g
もやし 87g
小松菜 80.0g
ほうれんそう 71.4g
セロリ 153.8g
干し椎茸 4.9g
椎茸 57g
しめじ 57.1g
えのきたけ 51.3g
ゴボウ 23.5g
にんじん 83.3g
かぼちゃ 87.0g
さつまいも 117.6g
ジャガイモ 181.8g
かぶ
たけのこ
こんにゃく
切り干し大根 9.9g
納豆 29.9g
枝豆 19.8g
大豆 11.8g
インゲン豆 10.4g
おから 20.4g
ひじき 4.6g
わかめ 55.6g

(5訂日本食品成分表、食品成分研究調査会/編、医歯薬出版株式会社を参考にしました)

毎日の食事の中でのひと工夫

さらに、以下のような工夫をしてみましょう。

主食にひと工夫を:精白米より玄米や胚芽精米を。パンもライ麦パンなどをとると食物繊維が多くとれます。

そばやパスタは全粒粉のものを

野菜は生より温野菜でたくさん食べる:野菜は火を通した方がかさが減り、一度にたくさん食べられます。食物繊維は加熱しても減ることはありません。

豆、いも、きのこ、海草類を使った付け合わせを一品は追加:前述したような食物繊維の多い食材を一品追加しましょう。

補助食品も上手に使ってみましょう

コーンフレーク(レーズン入り、食物繊維強化のもの)、飲む食物繊維など様々なものが出回っています。これらもうまく使いましょう。下の写真には、私がスーパーで見つけたものだけを示しています。他のもたくさんよいものがあると思います。

食事療法というと、“制限”が中心のように思いがちですが、食物繊維についてはたくさんとった方がよいのです。毎日の食事の中でちょっと意識してみましょう。

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